電子レンジにも使われているマイクロ波で、プラスチックの一種のポリ乳酸を素早く製造する技術の開発に、名古屋工業大学の高須昭則准教授らが成功した。マイクロ波による熱以外の効果を利用したもので、実用化されれば、プラスチック産業に影響を与えそうだ。核融合科学研究所(岐阜県土岐市)の高山定次准教授、中部電力エネルギー応用研究所(名古屋市緑区)の河村和彦研究副主査らとの共同研究で、6月16日付の英王立化学会Polymer Chemistryオンライン版に発表した。
高須准教授らは環境にやさしい省エネ型の高分子合成法として、マイクロ波の利用に着目した。名古屋工業大学、核融合科学研究所、中部電力が2011年に共同研究契約を締結して研究を進めてきた。試験管内で沸騰したキシレン(沸点145℃)の中に入れた乳酸に、マイクロ波を照射すると、乳酸が効率よく重合してポリ乳酸ができることを実証した。従来の合成法では1〜2日かかっていたところを6時間程度に短縮した。マイクロ波の発振には、核融合科学研究所の高山准教授らが開発したシングルモード半導体発振器を使った。
研究グループはこのプロセスを解析して、ポリ乳酸の合成には、マイクロ波の加熱や磁場よりも電場(電気成分)が効いていることを解明した。既存のプラスチック合成は反応容器を高温で加熱し、長時間保持することが必要なのに対して、このマイクロ波合成法は「製造工程の低温化、短時間化を実現し、省エネにも貢献しうる」という。特許も出願した。
論文に発表した実験は20ccの試験管で実施したが、2リットルのフラスコでの製造も試している。次の段階として、実用に近い2トン級の装置も検討している。合成したポリ乳酸は、サトウキビやトウモロコシ、生ごみのでんぷんを抽出し発酵させてできる乳酸から得られる生分解性プラスチックとして期待されている。
高須准教授は「マイクロ波で合成できる原理が、電場によることまで確かめた科学的意義は大きい。植物由来のポリ乳酸だけでなく、ほかのプラスチックの合成にも使える見通しだ。大型化やコスト面の課題はあるが、省エネ技術としてぜひ実用化して、マイクロ波でプラスチック産業の革命を起こしたい」と話している。
関連リンク
- 名古屋工業大学 プレスリリース
- 核融合科学研究所 プレスリリース
- 中部電力 プレスリリース