腸管でのコレステロール吸収とその抑制の仕組みを、東京大学大学院農学生命科学研究科「食の安全研究センター」の小林彰子(こばやし しょうこ)准教授と大学院生だった猫橋茉莉(ねこはし まり)さん、大学院生の小川真奈さんらが解明した。コレステロールの吸収抑制に道を開く成果で、脂肪の多い食品による動脈硬化などを予防するのにつながる発見として注目される。5月23日付の米オンライン科学誌プロスワンに発表した。
血中のコレステロールは、肝臓での合成と食事由来の吸収で調節されている。高脂血症はこれまで、肝臓のコレステロール合成を阻害する薬で治療されてきた。腸管からのコレステロール吸収の仕組みはあまりわかっていなかったため、研究が遅れていた。コレステロールのトランスポーターNPC1L1が2004年、腸管の細胞に発見されて、受動的な拡散だけでなく、積極的にコレステロールを取り込んでいることが明らかになっていた。
研究グループは、ヒトの腸管上皮から樹立された培養細胞で、このトランスポーターNPC1L1がコレステロールを吸収するタンパク質の仕組みを詳しく解析した。さらに、このトランスポーターの働きを直接阻害する有効成分として、ポリフェノールのルテオリンとケルセチンを見いだした。
これらのポリフェノールは培養細胞で、トランスポーターNPC1L1の阻害薬として唯一処方されている薬のエゼチミブと同等の抑制効果を示した。さらに、ラットに0.5%のコレステロールを含むえさを与えた動物実験では、ルテオリンとケルセチンを1日2回経口投与すると、食事に起因する血中のコレステロール濃度の上昇が抑えられた。
ルテオリンとケルセチンはリンゴやタマネギ、シソなどに含まれる。「これらのポリフェノール類を日常的に摂取すれば、動脈硬化や心疾患、脳血管疾患の原因となる高コレステロール血症の予防につながる可能性がある」と研究グループはみている。
脂肪がたっぷり含まれる食事をしながら赤ワインをよく飲むフランス人では、動脈硬化などが少ない。これは「フレンチパラドックス」として知られている。小林彰子准教授は「このパラドックスには、コレステロールの吸収抑制も効いているのではないか。ポリフェノールが健康に良い証拠のひとつだろう。食品に含まれるポリフェノールを日常的に摂取する意義をあらためて示せた」と話している。
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