高カロリー食の投与で引き起こされる血管老化が、筋肉でのエネルギー消費を阻害して、肥満や糖尿病などの生活習慣病を悪化させている可能性を、新潟大学大学院医歯学総合研究科の南野徹(みなみの とおる)教授らがマウスの実験で見つけた。生活習慣病に血管の老化が深く関与しているという新しい視点を提示する成果として注目される。千葉大学との共同研究で、5月22日に米科学誌セルリポーツのオンライン版で発表した。
糖尿病などの生活習慣病で、動脈硬化に伴って血管の老化が進んでいることはこれまでも知られていた。しかし、その逆に血管の老化が、糖尿病などにどのような影響を及ぼすか、はよく分かっていない。研究グループは、肥満や糖尿病で血管の老化がどういう役割をしているか、探った。
まず細胞老化で重要なタンパク質のp53に着目し、マウスで解析した。高カロリー食を与えて、糖尿病を発症させたマウスは血管の老化分子p53の発現が上がっていた。血管細胞だけでp53遺伝子発現を欠損させて血管老化を抑制したマウスを作製し、高カロリー食を投与したところ、野生マウスに比べ、糖尿病や肥満が抑えられた。
また、エネルギー消費量の変化を調べたところ、p53を欠損させた血管老化抑制マウスでは酸素消費量が多く、筋肉へのグルコース取り込み量が増えていた。逆に、老化した血管は骨格筋でのエネルギー消費を妨げていた。その分子レベルの仕組みも確かめた。高カロリーの食事を投与された糖尿病モデルマウスでは、血管細胞が老化することで筋肉への糖輸送なども障害されていることがわかった。この障害で余剰になったカロリーが内臓脂肪として蓄積し、肥満や糖尿病がさらに悪化するという悪循環の仕組みが浮かび上がった。
糖尿病で合併する血管障害はこれまで、糖尿病の病態の結果と考えられていたが、今回の研究で、血管の細胞老化によって、肥満や糖尿病がさらに進行する悪循環を引き起こしている可能性が強まった。
南野徹教授は「p53はがん抑制遺伝子でもあり、それ自体を治療の標的にするのは難しいが、『血管老化から肥満や糖尿病の進行へ』の悪循環を断ち切ることは、新しい治療法開発の手がかりになる」と指摘している。
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