互恵を本来好む人類の精神と同じ知性が小型サルにもあった。新世界ザルの一種である小型のマーモセットが高い他者認知能力を持ち、互恵精神に富むことを、国立精神・神経医療研究センター神経研究所の一戸紀孝(いちのへ のりたか)部長と名古屋大学大学院情報科学研究科の川合伸幸(かわい のぶゆき)准教授らが実験で明らかにした。
小型で扱いやすいマーモセットは繁殖力が高く、遺伝子操作もでき、モデル動物として利用されている。マーモセットの互恵精神の発見は、社会性に問題を持つ自閉症や発達障害などの研究に使う実験動物としての新しい可能性も開いた。5月21日の英科学誌Biology Lettersオンライン版に発表した。
マーモセットは南米に住む小型のサルで、体重はわずか300gほど。脳のサイズも小さく、実験室で記憶の課題を与えても成績は良くないが、一夫一妻で、父親や兄弟、姉妹も子育てに参加するなど協力的な社会性を持っている。研究グループは、マーモセットが互恵的な精神を好むかどうか、を調べるため、ユニークな実験をした。
2人の演技者が食べ物をやり取りする互恵的な関係と、一方の演技者が食べ物をもらいながら、お返しをするのを断る非互恵的な関係をそれぞれ見せた。その後に2人の演技者がマーモセットに食物を差し出して、どちらから食物を受け取るか、を観察した。実験に使った4頭のマーモセットはいずれも、互恵性を示す演技を見た後は、2人から同じ割合で食物を受け取ったが、非互恵性を示す演技を見せられた後は、互恵的でなかった演技者から食物を受け取るのを避ける傾向にあった。
近縁のフサオマキザルは体重5kg程度と大きくて脳も発達し、道具を使い、優れた記憶能力を持つなど社会的認知能力が高いことがこれまで知られている。道具を使用せず、記憶能力も劣るマーモセットも、フサオマキザルと同様の社会認知能力を持つことが今回の研究でわかった。
実験結果から、マーモセットは他者が互恵的か非互恵的か、見極めており、パートナーを選ぶような場合にも判断材料にしていることがうかがえる。研究グループは「互恵精神は、霊長類全体が持つのではない。他の個体に対して協力的な社会環境で生活する新世界ザルのフサオマキザルやマーモセット、そしてヒトに共通する認知の進化だろう。マーモセットはヒトの社会的知性の起源を解明する手がかりにもなる」とみている。
一戸紀孝部長は「使ったのは4頭だが、計240回実験し、演技者も交代させたりして、統計的に十分信頼できる結論を得た。小さなマーモセットが、全然関係のないヒトの行動を見て、互恵性を見抜いているのはすごい。それだけ社会的知性が高いといえる。マーモセットは、社会性に問題を持つ自閉症や発達障害などの解明にも実験動物として貢献できるだろう」と話している。