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絶縁体でも燃料電池触媒の可能性実証

2014.05.20

 絶縁体でも燃料電池の触媒になりうる新しい可能性が開けた。絶縁体の窒化ホウ素を金電極表面に載せると、燃料電池の重要な反応である酸素還元反応の電極触媒として機能することを理論と実験の両面で証明することに、物質・材料研究機構(茨城県つくば市)の魚崎浩平(うおさき こうへい)フェローと北海道大学大学院理学研究院の武次徹也(たけつぐ てつや)教授らが成功した。

 白金を使用しない絶縁体の燃料電池電極材料の開発に結びつく成果として期待される。4月28日付の米化学会誌に速報し、実験結果の詳細は5月6日付の英化学会誌「Physical Chemistry Chemical Physics」誌オンライン版で発表した。

 燃料電池は、水の電気分解の逆反応を利用して水素と酸素から電力を取り出し、廃棄物は水だけという究極のクリーン装置だが、普及には課題がまだ多い。その一つは酸素還元反応の速度が遅く、反応の効率が低いことだ。この反応を促す触媒として白金が現在、使われている。しかし、白金は高価で資源量も少なく、安定性にも問題がある。このため、白金などの貴金属を使わない、新規触媒の開発が世界中で進められている。

 研究グループは、元素戦略の観点からも、貴金属を使わない触媒の開発に窒化ホウ素(BN)で取り組んだ。本来絶縁体であるBNを金表面に載せて担持すると、電子状態が変化して導電性が生じ、酸素分子が安定的に吸着することを理論で見いだした。この表面での酸素還元反応過程のエネルギー変化を計算し、酸素還元の触媒として機能する可能性を確かめた。

 実際に、金表面に種々のBN(ナノシート、ナノチューブなど)を均一に担持した試料を作製し、回転電極法により酸素還元反応を調べた。金電極の酸素還元電流がBNの担持によって、最大約270 mVも正電位側で観測され、酸素還元の触媒活性があった。炭素電極を基板に使った場合は触媒活性が観測されなかったことから、BN薄膜が酸素還元反応の触媒として働く上で、金基板との相互作用が重要な鍵となっていることを実証した。

 白金触媒の酸素還元電流が600mVなのに比べて、今回の触媒は活性がまだ低いが、理論と実験の融合が、燃料電池の新規触媒材料の探索・設計に有効な指針を提供できることがわかった。魚崎浩平フェローは「絶縁体でも、発想を変えれば、燃料電池などの触媒になりうることを示した点に、この研究の意義がある。理論計算を併用しながら、より効率の高い実用的な酸素還元触媒を開発したい」と話している。

理論計算で求めたBN‐金表面に吸着した酸素の安定化構造
図. 理論計算で求めたBN‐金表面に吸着した酸素の安定化構造。
(左)は 酸素分子がBN のホウ素原子の上に吸着。
(右) は酸素分子がホウ素原子と金原子との間で吸着。
数字は原子間距離(オングストローム)。
(ピンク:金、青:窒素、灰色:ホウ素、水色:水素、赤色:酸素の各原子)
回転電極法によって観測された酸素の還元反応にともなう電流応答曲線
グラフ. 回転電極法によって観測された酸素の還元反応にともなう電流応答曲線。
横軸が電圧、縦軸が電流。酸素飽和の硫酸水溶液中で電極電位。
(ⅰ)金電極、(ⅱ)金-BN ナノチューブ電極、(ⅲ)金-BN ナノシート電極、 (ⅳ)炭素電極、(ⅴ)炭素-BN ナノシート電極。
(いずれも提供:物質・材料研究機構)

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