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蛇行復元で釧路川の自然は再生した

2014.05.19

 釧路湿原を流れる釧路川でアジア初の「川の蛇行復元事業」が2011年までに実施された。その復元事業で自然が再生し、河川や湿地の動植物が豊かさを取り戻しつつあることを、北海道大学大学院農学研究院の中村太士(なかむら ふとし)教授らが、北海道開発局の実施したモニタリング調査と現地調査で検証し、5 月14 日付の米科学誌Restoration Ecologyオンライン版で報告した。昔のように川を蛇行にもどすことが、河川や湿地環境の復元手法として有効であることを示した。

 先進国では多くの川が周辺の開発に伴って本来の「曲がった川」から「まっすぐな川」へと改変されてきた。この河川の直線化は、河川や周辺湿地の動植物の減少を引き起こした。日本最大の湿地の釧路湿原を流れる釧路川でも1970〜80年代に一部で直線化がなされた。

 釧路川の蛇行復元事業は2007年〜11年に、約9億円をかけて(1)魚類・水生昆虫の生息環境の復元(2)氾濫頻度の向上による湿原植生の復元(3)下流の湿原帯への土砂・肥料由来の栄養塩の流出防止(4)自然状態に近い河川景観の復元—の4 点を目標に行われた。

 河口から32キロ上流にある1.6キロの直線区間を復元し、2.4キロの曲がった川に戻した。直線化に伴って河川から切り離されていた旧河川に水を再び流し、直線化された区間の川は土砂で埋め戻され、堤防も取り除かれた。蛇行復元後の景観は、釧路川の自然な区間とよく似ており、今回の事業で自然状態に近い景観が復元したことがわかった。

 事業前と事業後の動植物の多様性や環境のモニタリングと現地調査から、蛇行復元事業のすべての目標がほぼ達成されていたことがわかった。蛇行復元で、魚類や水生昆虫ともに、すぐ上流に残る直線区間よりも、多くの種が確認され、魚類の個体数も増えていた。また、洪水時に川の水が周囲の氾濫原にあふれやすくなり、地下水位の上昇と、約30ヘクタールの湿原植生の増加が確かめられた。蛇行復元区間の景観はカヌー愛好者も高く評価しており、「観光資源や理科教育の面でもプラスだった」と指摘している。

 釧路川の蛇行復元工事を担当した北海道開発局釧路開発建設部の秋山泰祐(あきやま やすひろ)治水課長は「釧路川の直線化は、上流の洪水被害軽減と農地開発を目的に実施した。戦後の事業として、防災と開発は至上課題だったが、釧路湿原の環境保全を求める声が高まり、時代が変わってきた。この蛇行復元は国内初の試みだった。今のところ、環境再生の効果はあった。釧路湿原内のほかの部分でも、河川の蛇行復元を検討している」と話している。

釧路湿原を流れる釧路川で実施された蛇行復元事業
写真1. 釧路湿原を流れる釧路川で実施された蛇行復元事業。
直線化された川は土砂で埋め戻され、曲がった川が復元した。
蛇行復元区間と自然区間の景観
写真2. 蛇行復元区間と自然区間の景観。互いに似ており、蛇行で自然状態に近い景観を復元できたことがわかる。
(いずれも提供:北海道開発局釧路開発建設部)

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