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スマホで新しい顕微鏡文化を目指す

2014.04.28

 いつでも、どこでも、誰でも顕微鏡を使い、「Life is small(生物は小さい)」ことを実感してほしい。こんな思いから、簡単に操作でき、手軽に買えるスマホ顕微鏡を、永山國昭(ながやま くにあき)生理学研究所名誉教授らが開発した。ベンチャー企業のテラベース(愛知県岡崎市)が4月中旬、スマホに装着するレンズ部品(Leye、エルアイと命名)の通信販売を始めた。永山さんは「自然な形で顕微鏡が日常的に活用される『新しい顕微鏡文化』を広げたい。魅力あふれるミクロの世界に触れてほしい」と訴えている。

 スマートフォンのカメラを顕微鏡に流用しようとするアイデアはこれまでもたくさんあり、世界中で10種類以上の商品が出ている。しかし、使い勝手が悪く、普及してこなかった。永山さんは、背面カメラではなく、自分撮りをする前面(フロント)カメラの利用を共同開発者の伊藤俊幸さんと思いついた。背面カメラの顕微鏡では、手ぶれしたり、照明が必要だったりするなどのいろいろな欠陥があったが、フロントカメラなら、スマホを静置でき、その上に試料をのせるだけでよく、それらの諸課題を一気に解決できる。コロンブスの卵のような発想の転換だった。

 スマホ顕微鏡用の部品は、ガラス製ボールレンズが埋め込まれたプラスチック板と接着用ゴムシートなどの部品で構成され、一式送料込みで3780円。簡単に組み立てられ、フロントカメラの上にのせれば、完成する。スマホの液晶画面に拡大画像が映し出され、焦点合わせ、倍率の変化、観察部位の移動、記録、送信もすぐできる。画像にスケールも入れられる。数ミクロン(1ミクロン=0.001ミリ)まで見ることができ、多くの微生物や細胞が観察可能である。10万円前後で市販されている顕微鏡に要求される機能がほぼ備わっている。今後、スマホのフロントカメラの性能が上がれば、スマホ顕微鏡もさらに高度化する可能性をはらんでいる。永山さんたちは昨年、特許も申請した。

 スマホ顕微鏡の原理は、オランダの呉服商だったレーウェンフック(1632〜1723年)が使った虫眼鏡のような単レンズ顕微鏡と同じだ。赤血球や細菌などを次々に観察して、膨大なスケッチを残して、ミクロの世界に人々を導いた。同じころ、イギリスの自然哲学者、ロバート・フック(1635〜1703年)が2枚のレンズを組み合わせた複式顕微鏡で生物を観察し、細胞の名付け親になった。2種類の顕微鏡は対照的な運命をたどった。レーウェンフックの顕微鏡は性能には優れていたが、扱いにくかったため、途絶えた。一方、ロバート・フックの複式顕微鏡がその後の顕微鏡発展の主流を担った。「レーウェンフックの顕微鏡は約350年の時を経て、スマホ顕微鏡としてよみがえった」と永山さんは科学史的な意義を指摘する。

 永山さんは「動物園に行けば、人間より大きい動物が多数いる。見栄えがする大きなものに、人々はひかれる。しかし、生物の99.9%以上は人間より小さい。したがって、観察には顕微鏡が欠かせない。手軽なスマホ顕微鏡が普及すれば、いろいろな使い道がある。子どももお年寄りも世代を超えて利用できる。多くの人が参加して、世界中の環境情報を収集したりするのにも役立つだろう。教育や産業、医療にも使ってほしい。ミクロの世界は人間の心を揺さぶる。こういう身近なイノベーションこそ社会を変えるだろう」と話している。

スマホ顕微鏡で観察したホロホロチョウの羽
写真1. スマホ顕微鏡で観察したホロホロチョウの羽
スマホ顕微鏡で観察したホロホロチョウの羽
写真2. スマホ顕微鏡で観察したホロホロチョウの羽
スマホ顕微鏡を操作する永山國昭さん
写真3. スマホ顕微鏡を操作する永山國昭さん
 図. スマホ顕微鏡の原理。(A)は人が虫眼鏡レンズで試料を見ている図。
(B)はスマートフォンに乗せて試料を撮影した図で、比較しやすいよう上下逆さにしている。ボールレンズで拡大した像をスマホカメラで撮影し、画像として観察できる。
図. スマホ顕微鏡の原理。
(A)は人が虫眼鏡レンズで試料を見ている図。(B)はスマートフォンに乗せて試料を撮影した図で、比較しやすいよう上下逆さにしている。ボールレンズで拡大した像をスマホカメラで撮影し、画像として観察できる。

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