イノベーションは創造するだけでは不十分で、普及させるための適切なコミュニケーションが重要であることを、鈴木智子(すずき さとこ)京都大学大学院経営管理研究部特定講師が確かめた。過去約20年間の「自分へのご褒美」のような消費と、企業やメディアが発信したメッセージを分析して、コミュニケーションの重要性を示した。
イノベーションの意義は誰もが認めている。その研究では、新技術の発明や新しいアイデアなどの創造が主に注目されてきた。創造は出発点として不可欠だが、優れた発明がいつも社会に受け入れられているわけではない。むしろ、その多くは消費者らに価値を認められず、失敗に終わっている。イノベーションを成功させるには、社会にどう普及させていくか、を検討する必要がある。こうした視点から、鈴木智子さんはイノベーションの普及者の企業やメディアが1987〜2009年に発信したメッセージの影響と、「自分へのご褒美」のような消費行動の浸透を歴史的に調べた。
これらの分析から、イノベーションを普及させるには、「正当性」を与えることの重要性が浮かび上がった。しかも、普及の段階で、「正当性」のタイプは異なっていた。普及の初期には、イノベーションが「真っ当である」という「道徳的正当性」に加えて、イノベーションを採用することで価値が得られるという「実践的正当性」が、普及の後期にはそれが普通であるという「認知的正当性」が重要になることがわかった。これらの正当性を獲得するのに、コミュニケーションで見方の枠組みを与えるフレーミング活動が役立つこともうかがえた。
鈴木智子さんは「日本は技術が優れているが、利用者が価値を見いだすような普及活動に焦点が当てられてこなかった。普及過程にも戦略的に取り組めば、イノベーションの可能性は広がる。また、マーケティングとイノベーションの研究を橋渡しする取り組みがますます必要になる。今後は、イノベーション普及の仕組みの解明をより進めて、日本経済の発展に貢献したい」と意欲を見せている。この研究成果は2013年、著書「イノベーションの普及における正当化とフレーミングの役割」(白桃書房)のほか、3編の論文で報告した。