前頭葉の神経細胞が動物の攻撃行動を抑制することを、国立遺伝学研究所(静岡県三島市)の高橋阿貴(たかはし あき)助教と小出剛(こいで つよし)准教授らがマウスの実験で初めて証明した。動物の生存にとって攻撃行動の調節は重要であり、その神経レベルの仕組みを解明する成果として注目されている。大阪大学大学院薬学研究科の永安一樹(ながやす かずき)助教と京都大学大学院薬学研究科の金子周司(かねこ しゅうじ)教授、西谷直也(にしたに なおや)大学院生との共同研究で、4月17日の米オンライン科学誌プロスワンに発表した。
動物の攻撃行動は、なわばりや地位、子どもを守ろうとするときなどに観察される。しかし、この攻撃が過剰にならないよう、実は抑制がきいている。ほどほどの攻撃にとどめるため、ブレーキがかかっているのである。こうした調節の仕組みは前頭葉にあるとされているが、詳細はわかっていなかった。
研究グループは、雄マウスの前頭葉の働きを解析した。光を当てることによって特定の神経細胞を活性化したり抑制したりするオプトジェネティクス(光遺伝学)の手法を使った。前頭葉の中でも攻撃行動に関わるのは内側前頭前野という領域とされている。今回、この領域に細い光ファイバーを差し込み、青色の光を照射して活性化すると、攻撃行動の頻度が減少した。また、すでに攻撃行動をとっているときに、この神経細胞を活性化させても、攻撃行動を即座に抑えることはできなかった。
実験結果から、前頭葉の内側前頭前野は攻撃行動を起こりにくくするブレーキになっているが、ひとたび始まってしまった攻撃は止められないことが明らかになった。一方、黄色の光を照射して内側前頭前野の神経活動を抑制すると、攻撃行動が増えていた。この実験では、攻撃以外の行動には影響がなかった。
研究グループの高橋阿貴さんは「攻撃行動が前頭葉の神経で調節されていることを直接的に実証したのは初めてだ。多くの専門家の支援で、光遺伝学を駆使して実験ができた。前頭葉は霊長類やヒトで発達したので、マウスの結果をすぐに当てはめられないが、脳の基本構造は似ており、ヒトの行動の研究の手がかりにもなるだろう」と話している。
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