ごく微小な血液で半日以内に大腸がんを検出できる画期的な方法の開発に、国立がん研究センターが成功した。同センター研究所の落谷孝広(おちや たかひろ)分子細胞治療研究分野長や吉岡祐亮(よしおか ゆうすけ)研究員らの成果で、4月7日付の英オンライン科学誌ネイチャーコミュニケーションズに発表した。
研究グループは数年後の実用化を目指している。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「がん超早期診断・治療機器の総合研究開発」プロジェクトや文部科学省の支援を受けて、塩野義製薬などと共同で実用化に着手した。大腸がん検診などに使える極めて有望な方法として期待が高まっている。
まったく新しい原理に基づく。血液中には、エクソソームと呼ばれる微小な小胞が含まれていることがここ数年でわかってきた。エクソソームは、がん細胞などさまざまな細胞から分泌される。今回の方法はまず、大腸がん細胞が分泌するエクソソームの膜にあるタンパク質を2種類の抗体で挟み込む。次に、その2種類の抗体が200ナノメートルまで接近すると、抗体に付いたビーズが発光する。これを高感度に検出して、大腸がん細胞からのエクソソームの有無を判定する。研究グループは、早期診断が難しいすい臓がんや、がん以外の病気の診断の集団検診にも、この手法の利用を計画している。
エクソソームの検出法はこれまでもあるが、1日はかかり、多くの手間が必要で、普及していない。新しい検出法は簡便さが際立つ。1.5〜3時間で検出でき、必要な血清も従来の40分の1の5マイクロリットルで済む。国立がん研究センター中央病院バイオバンクや大阪大学消化器外科などの協力を得て、大腸がん患者194人と健常人191人の血液を比較して解析した結果、既存の腫瘍マーカーの血液検査よりも、早期がんの診断率が高いことを確認した。
大腸がんは来年にも、胃がんを抜いて、日本人の患者数は最も多いがんになると予想されている。検診による早期発見が課題だが、現在使われている便潜血検査法は感度、特異度ともに十分でない。検診で陽性となれば、大腸内視鏡検査が必要となる。研究グループの中島健(なかじま たけし)国立がん研究センター中央病院医師は「大腸がんに対して精度の高い血液検査法がこれまでなかった。大腸がんの集団検診でも利用できる効率的な検診方法の開発が急務だ。今回の方法が大腸がん検診に使えれば、患者、医療者ともに、負担の軽減につながり、社会的な意義は大きい」と指摘している。
研究を主導する落谷孝広さんは「エクソソームは血液や尿に存在し、採血や採尿で簡単に診断できる。さらに、早期がんで検出できるのも強みだ。基礎研究が急速に進んで、検査法を確立できた。大腸がんだけでなく、すい臓がんや乳がんなどにもぜひ応用したい。エクソソームには、患者のさまざまな情報が詰まっており、病態の把握や治療評価への利用も考えられる」と話している。
関連リンク
- 国立がん研究センター プレスリリース
- NEDO プレスリリース