飽食は健康の敵である。動物は食事をやや制限した方が老化を遅らせ、長生きすることは広く知られている。その食事制限による寿命延長と抗老化作用には、神経ペプチドホルモンのニューロペプチドY(NPY)が重要な役割を果たしていることを、早稲田大学人間科学学術院の千葉卓哉(ちば たくや)教授と長崎大学医学部の下川功(しもかわ いさお)教授らがマウスの実験で明らかにした。
哺乳類の食事制限効能の仕組みを分子レベルで示す成果で、3月31日付の英オンライン科学誌サイエンティフィックリポーツに発表した。研究グループは「NPYの量を増やす薬などを開発できれば、老化に伴って増えるさまざまな疾患の治療につながる」と期待している。
マウスに与える餌を自由に食べる量から30%程度減らすと、寿命が延びる。こうした現象は約80年前から知られ、サルを含めた実験動物でも、食事制限による、がんや生活習慣病などの抑制、抗老化作用が再現されてきた。線虫やショウジョウバエなどの下等動物では、食事制限に伴う寿命延長に関連する遺伝子が報告されているが、哺乳類ではまだよくわかっていない。
今回の研究では、摂食を促す神経ペプチドホルモンの一種、NPYに注目した。NPYを持たないようにした遺伝子改変マウスに対しては、食事制限をしても寿命は延長しなかった。解剖したところ、NPYを持たないマウスは、食事制限してもがんの発生頻度が高かった。これが短寿命と関連しているらしい。NPYが、活性酸素による酸化ストレスへの耐性を高めていることも確かめた。
千葉卓哉教授は「NPYは食事制限による寿命延長に欠かせない因子の一つだろう。高齢者では栄養の摂取が必要だが、食が細くなると、NPYが下がってくる。NPYを増やすことが老化抑制に役立つだろう」と話している。
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- 早稲田大学 プレスリリース