お茶の水女子大学は、高エネルギー加速器研究機構の湯浅年子ラボラトリーの協力を得て、湯浅年子賞を創設した。その記念すべき第1回授賞式が3月26日、同大学で開かれ、受賞者の山崎美和恵(やまざき みわえ)埼玉大学名誉教授と市川温子(いちかわ あつこ)京都大准教授に表彰状とメダルが贈られた。お茶の水女子大学の羽入佐和子(はにゅう さわこ)学長は「女性が社会貢献を求められる中、若い人を励まそうと思って、この賞をつくった」とあいさつした。
物理学者の湯浅年子(1909~1980年)は東京女子高等師範学校(現・お茶の水大学)を卒業し、戦後、お茶の水女子大学教授も務めた短い時期を挟んで、後半生をパリで過ごして、原子核の実験的研究を続けた。詩歌やスケッチ、随筆にも才能を発揮して、科学や芸術を志す若い女性に影響を与えた。同賞は、「最後まで徹底に」「科学の根本精神は広い豊かな愛である」を信条として生きた湯浅年子の足跡が次世代に引き継がれることを願ってつくられた。お茶の水女子大学賞でもある。
受賞者の山崎美和恵さんは物理学者で、1990年に埼玉大学を定年退官してから、先輩の湯浅年子の膨大な資料の整理と研究に専念して、紹介する著書を数多く世に出した。その活動が評価されて受賞の決定を聞いた後の昨年12月に89歳で亡くなった。代わりにおいの山崎俊嗣(やまざき としつぐ)東京大学大気海洋研究所教授が受賞して講演し、「伯母はパリに留学して、湯浅さんと親しくした。晩年は湯浅さんの資料を整理して若い人に伝えることをライフワークにした」と語った。
市川温子さんは「ニュートリノ振動実験への寄与」が授賞理由。茨城県・東海村の大強度陽子加速器から素粒子、ニュートリノを岐阜県・神岡の地下検出器カミオカンデに向けて打ち込む電磁ホーンを開発した。講演ではこのT2K実験を解説し「約500人の共同研究で、私は代表でもない。共同受賞と思っている。娘や夫ら家族に感謝したい」と話した。
参加者が50人ほどのささやかな会だったが、湯浅年子をしのび、ほのぼのとした雰囲気の中で2人の受賞を祝った。今や理科系の研究に女性の進出が期待されている。湯浅年子の後を継ごうとする者たちに「科学研究で女性が向いていることはいっぱいある」と印象づける授賞式になった。