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カブトムシの角は矛盾だった

2014.03.13

 生物の進化は微妙なバランスの上で起きている。カブトムシの雄の角は、雄同士の闘争では長い方がよく、天敵から食われるのを避けるには短い方がよい、という深刻なジレンマを抱え込んでいることを、東京大学総合文化研究科の小島渉(こじま わたる)学振特別研究員らが見つけた。東京大学大学院農学生命科学研究科の石川幸男(いしかわ ゆきお)教授と、神戸大学大学院農学研究科の杉浦真治(すぎうら しんじ)准教授、森林総合研究所の槙原寛(まきはら ひろし)さん、高梨琢磨(たかなし たくま)主任研究員との共同研究で、日本動物学会英文誌3月号に発表した。その表紙は小島さんが撮影したカブトムシの写真が飾った。研究グループは「カブトムシの角の進化に天敵がどう影響したかを探る手がかり」としている。

 樹液が出ているクヌギ、コナラなどの広葉樹のそばに、腹部だけが食べられたカブトムシの残骸がよく散乱している。誰がカブトムシを食べているか、実際に詳しく確かめられたことはなかった。その疑問に答えるために研究に取り組んだ。

 小島渉さんらは、茨城県つくば市にある森林総合研究所の雑木林に赤外線センサーカメラを設置し、捕食者を自動撮影した。その結果、タヌキとハシブトガラスが捕食していたとわかった。日中はハシブトガラスが食べていたが、カブトムシの活動がピークとなる深夜の午前0〜2時ごろにはタヌキが樹液を訪れて食べていた。タヌキとハシブトガラスは、カブトムシの発生のピークに合わせるように、樹液を訪れる頻度は8月上旬に最大となった。ハクビシンやアナグマ、ネコなども樹液に来ていたが、カブトムシを補食する様子は見られなかった。

 また、食痕の違いを調べたところ、タヌキは歯型と思われる小さな穴を残骸に残していた。この食痕で関東地方の複数の地域から回収した残骸を分析した結果、タヌキに食べられたものは全体の残骸のうち6〜8割に上ると推定された。関東地方では、タヌキこそがカブトムシの天敵といえる。また、タヌキやハシブトガラスは、カブトムシの雌よりも雄を、さらに角の短い雄よりも角の長い雄を多く捕食していた。

 長い角をもつ雄は、雌やえさの獲得などの雄同士の闘争で力の強さをあらわす目印として知られている。その一方で、天敵に対して目立ちすぎるため、食べられやすくなって不利になる。角の長さを追求すれば、天敵の食べられやすいという矛盾があったといえる。

 小島渉さんは「最初は、カラスが食べていると思い、その証拠を取ろうとして、カメラを設置したが、意外にもタヌキが主な捕食者だった。タヌキは目が悪いが、角も入れれば体長が7センチもあるカブトムシの雄は目立つので、食べやすいのだろう」と話している。また石川幸男教授は「カブトムシの雄の角は長すぎても、短すぎても、都合が悪い。進化の過程で、ちょうど折り合いのよい長さになっているのだろう」と指摘している。

カブトムシの天敵と食痕
図1. カブトムシの天敵と食痕
バナナの発酵液で誘引して採集したのと、食べられたカブトムシの性比や角の長さの比較
図2. バナナの発酵液で誘引して採集したのと、食べられたカブトムシの性比や角の長さの比較

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