約6600万年前の中生代(白亜紀)末にメキシコ・ユカタン半島に直径約10キロの巨大隕石(いんせき)が衝突して、恐竜などの生物の大量絶滅が起きたとされている。しかし、隕石の衝突だけでは、海洋でのプランクトンの大量絶滅をよく説明できず、未解決の問題として残っていた。
隕石衝突で硫酸になりやすい物質が舞い上がり、酸性雨が降り注いで海を酸性化したことが大量絶滅の原因とする説を裏付ける実験に、千葉工業大学惑星探査研究センターの大野宗祐・上席研究員、産業医科大学の門野敏彦教授、東京大学新領域創成科学研究科の杉田精司教授らが成功した。大阪大学レーザーエネルギー学研究センターの高出力レーザー激光12号を使って、巨大隕石衝突とほぼ同じ条件の秒速約20キロの高速で、ユカタン半島に分布するような硫黄を含む岩石に、硬い金属片を衝突させる世界初の実験を実施した。爆発的に蒸発してくる物質を測定して、強い酸性雨が降った証拠を得た。
この隕石衝突再現実験で放出されたのは、想定されていた二酸化硫黄ではなく、硫酸になりやすい三酸化硫黄だった。その量を理論的に計算すると、三酸化硫黄は数日以内に強い酸性雨となって全地球上に降り注ぎ、深刻な海洋酸性化を引き起こしたというシナリオが描けた。海洋は通常pH8の弱アルカリ性で安定しているが、今回の衝突実験のデータによると、pH6の弱酸性まで変化した。プランクトンの殻を形成する炭酸カルシウムが溶け出すような海洋酸性化といえる。多くの海洋生物が絶滅に追いやられ、生態系が崩壊した可能性が浮かび上がった。
研究成果は3月10日の英科学誌ネイチャージオサイエンスのオンライン版で発表した。大野宗祐さんは「隕石衝突の再現実験と蒸発ガスの分析に苦労した。中生代末の大量絶滅では、恐竜だけでなく、海の表層の生物が多く絶滅したことが知られており、我々の説がそれを初めて説明できた。今後も証拠を積み重ね、今回の結果を補強したい」と話している。
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千葉工業大学 プレスリリース