二酸化炭素(CO2)から新しいプラスチックを合成するのに、東京大学大学院工学系研究科化学生命工学専攻の野崎京子(のざき きょうこ)教授と伊藤慎庫(いとう しんご)助教、中野遼(なかの りょう)大学院生が成功した。ポリラクトンという新規物質で、従来のものに比べて、高温でも容易に変形せず、有毒ガスを発生しないという。3月10日の英科学誌ネイチャーケミストリー・オンライン版で発表した。
安価で大量に入手できるCO2を原料としたプラスチックは既に存在している。しかし、燃焼で発生する有毒な窒化酸化物、低い耐熱性、CO2利用率の低さなどの課題があった。研究グループが合成した新プラスチックは従来の問題点の多くを解消するもので、CO2の含有率は29%と高い。排出削減が求められているCO2の有効利用に道を開く発明といえる。
野崎教授らは、合成ゴムの原料のブタジエンにCO2を加え、パラジウム触媒でラクトンを作ったのちに、パラジウム触媒の活性をなくしてラクトンを重合させ、ポリマー樹脂を合成した。1種類の反応では理論的に不可能だったが、パラジウム触媒を巧みに使い、2種類の反応を組み合わせて、不可能を可能にし、新しいプラスチックのポリラクトンを合成した。
野崎教授は「このポリラクトンは分解温度が340度と高いので、溶かして成形できる。全く新しい物質なので、未知数の部分は多いが、箱やフィルムなどへの幅広い利用を期待している。生産プロセスを改良して大量生産すれば、わずかながらでも、CO2排出量を減らせる可能性はある」と話している。