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災害時の血液透析メッシュ開発

2014.02.20

 慢性腎不全患者の血中に含まれる尿毒素の一つ「クレアチニン」を選択的に除去できるナノファイバー・メッシュの開発に、物質・材料研究機構「国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(MANA)」の荏原充宏・MANA研究者と滑川亘希・博士研究員らが成功した。吸着能をもつゼオライトを含んだナノファイバーを加工した不織布で、血液をろ過することでクレアチニンを除去する。災害時の携帯型透析装置の開発に応用が期待されるという。

 荏原さんらは、生体適合性に優れた高分子「エチレンビニルアルコール」(EVOH)の溶液を、極細ノズルから電極に向けて噴出させる方法(電解紡糸法)によってファイバー状に加工し、同時にゼオライト粒子を内包させてメッシュを作った。ゼオライトは、結晶中に多くの細孔のあるアミノケイ酸塩の鉱物で、尿毒素を選択的に吸着する性質をもつ。

 90種類以上の大小さまざまな尿毒素のうち、アミノ酸のクレアチンの老廃物であるクレアチニン分子の大きさに合わせた細孔サイズをもつゼオライト粒子を用いてナノファイバー・メッシュを作り、吸着性を試した。ゼオライトを30重量%含むファイバー・メッシュ25グラムで、1時間でヒトの体内に蓄積するクレアチニン量(約50ミリグラム)を除去することができた。吸着性能はまだ実用的ではないが、ファイバーを定期的に取り換えることや、ファイバーの表面積やゼオライト粒子の形状や大きさを工夫するなどして、さまざまな種類の尿毒素にも対応できるような、実用化メッシュの開発を目指す。

 日本国内の慢性腎不全患者は30万人を超えている。血液透析には大量の水と電気を使う大掛かりな装置が必要だが、2011年3月11日の東日本大震災では、岩手、宮城、福島3県に住む約12,000人の透析患者の透析治療が困難となった。さらに原発事故により、福島県内の透析患者は“透析難民”となり、東京都や千葉、新潟県などへ集団疎開(そかい)を余儀なくされたという。

 今回のナノファイバー・メッシュの開発について荏原さんらは、こうした災害時の医療対応のほか、年間12%の割合で透析患者が増えている発展途上国などのインフラ未整備な地域での使用も想定している。

 研究論文“Fabrication of zeolite polymer composite nanofibers for removal of uremic toxins from kidney failure patients”は、科学雑誌『Biomaterials Science』に掲載された。

災害時にも利用可能な腕時計型の尿毒素除去システム構成
図1. 災害時にも利用可能な腕時計型の尿毒素除去システム構成。腕時計部分にゼオライト粒子を含有するナノファイバーが装着される。
ゼオライト粒子を含有したナノファイバー・メッシュ ナノファイバー・メッシュの電子顕微鏡画像(スケールは8マイクロメートル)
図2(a). ゼオライト粒子を含有したナノファイバー・メッシュ 図2(b). ナノファイバー・メッシュの電子顕微鏡画像(スケールは8マイクロメートル)

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