情報通信研究機構(NICT)は、上空から噴煙や雲の影響を受けることなく地表面を観測することができる「高分解能航空機搭載映像レーダー」(Pi-SAR2)の観測データを、飛行機上で高速に処理する技術を開発したと発表した。先日の桜島噴火の緊急観測では、従来約1日かかっていた画像提供を10分程度に大幅に短縮できた。今後はさらに、防災や大事故対応などに威力を発揮しそうだ。
「高分解能航空機搭載映像レーダー」(Pi-SAR2〈パイ-サー・ツー〉)は、NICTが開発したXバンド(周波数約10ギガヘルツ)のマイクロ波を利用した映像レーダーだ。直進性の強い電波を利用しているため、雲や火山噴煙に遮られることなく、天候が悪い時や夜間でも地表面を観測できる。さらに、地上で30センチメートル離れた物同士を識別できる世界最高クラスの空間分解能をもっている。しかし、機内スペースや電力の制約などにより、観測データから「偏波疑似カラー画像」を航空機内で作成することは困難だった。
「偏波疑似カラー画像」は、地表面からの反射波(垂直偏波、水平偏波)のデータを色彩(RGB)データに割り当てて得られる擬似カラーの画像のこと。その画像化のために、NICTは今回、通常のCPU(中央演算処理装置)よりも10倍以上高速な演算能力をもつ画像処理用の半導体チップスGPU(グラフィックス・プロセッシング・ユニット)を利用した。
その結果、航空機内で、レーダーの観測と観測の合間に必要な記録データのみを切り出し、偏波疑似カラー画像を作れるようになった。処理時間は、地上2キロメートル四方を対象とした偏波疑似カラー画像の場合は5分弱ほどで、得られた画像データはすぐに商用通信衛星経由で地上に送ることができる。
8月18日に爆発的噴火を起こした桜島(鹿児島市)について、NICTは同20日に航空機による緊急観測を行い、開発した技術を検証した。桜島の噴煙が立ち上る「昭和火口」とその周辺を上空約9,000メートルから観測し、機上で得られた偏波疑似カラー画像を商用通信衛星「インマルサット」経由で地上に伝送し、ただちに気象庁を通じて、火山噴火予知連絡会などの関係機関に提供した。
観測時は雲や噴煙のために、肉眼では桜島の火口付近の様子は確認できなかったが、得られた画像では、火口や山体斜面の細かい起伏や形状などが確認できた。これまでは、観測から偏波疑似カラー画像を提供するまでに約1日かかったが、今回はそれを10分ほどに大幅に短縮できたという。