「スーパー・サイエンス・ハイスクール(SSH)」の指定校として先進的な理数系教育に取り組んでいる高校の生徒たちによる研究発表会が7、8の2日間、横浜市のパシフィコ横浜で開かれ、全国201の指定校と海外招待18校の生徒や先生などのべ約6400人が参加した。とくに優秀な研究発表を行った茨城県立水戸第二高等学校には文部科学大臣表彰が贈られた。
SSH事業は、将来の国際的な科学技術系人材を育てることを目的に2002年度から行っているもので、文科省が全国の高校や中高一貫校の中から指定し、科学技術振興機構(JST)が支援している。指定期間は05年度に、それまでの3年から5年に延長された。
SSH生徒研究発表会の初日は、東京女子医科大学副学長・教授で先端生命医科学研究所所長の岡野光夫(てるお) 氏が「細胞組織で治療する再生医療テクノロジー」について講演した。開催両日展示ホールに設けられたブースでは、参加校の生徒たちが日ごろの研究活動の成果をポスター発表した。他校の研究発表に熱心にメモを取りながら聞き入ったり、質問したりする生徒たちの姿もあちらこちらで見られた。また、米国やドイツ、中国、韓国、台湾、シンガポールなどの高校生たちも自分たちの研究を紹介し、日本の生徒たちと交流した。
8日に国立大ホールで開かれた全体会では、SSH指定3年目の38校から選ばれた4校が代表で研究成果を壇上で口頭発表した。金光学園中学高等学校の生徒たちは、木星の衛星イオの公転周期が変動していることを、学校の天文台の観測結果から突き止めた。福島県立磐城高等学校の生徒たちは、東日本大震災の被災経験を基に、野外調査と模型実験に取り組み、津波ハザードマップを作製した。熊本県立第二高等学校の生徒たちは甘酒の抗酸化成分に着目し、適正な麹(こうじ)作りの温度と糖化温度の関係を見出した。茨城県立水戸第二高等学校は、生徒の小沼萌さんが12年間取り組んできたアカガエルの研究を発表した。とくに茨城県笠間市内に生息する2種類のアカガエルの産卵時期が、全国地域とは違っていることに注目し、2種類の関係を明らかにした。
選ばれた各表彰校は次の通り。
「文部科学大臣表彰」
茨城県立水戸第二高等学校
「科学技術振興機構理事長賞」
福島県立磐城高等学校、熊本県立第二高等学校、金光学園中学高等学校
「奨励賞」
岩手県立盛岡第三高等学校、滋賀県立膳所高等学校、石川県立小松高等学校、大阪府立岸和田高等学校
「ポスター発表賞」
大阪教育大学附属高等学校天王寺校舎、清真学園高等学校・中学校、宮城県仙台第三高等学校、東京学芸大学附属高等学校、京都教育大学附属高等学校、東京都立多摩科学技術高等学校、京都府立桃山高等学校、兵庫県立加古川東高等学校、立命館高等学校、和歌山県立日高高等学校・附属中学校、高松第一高等学校、広島県立西条農業高等学校、福岡県立小倉高等学校、池田学園池田中学・高等学校、鹿児島県立錦江湾高等学校、群馬県立前橋女子高等学校、北海道札幌西高等学校、神奈川県立厚木高等学校、立命館慶祥高等学校、新潟県立高田高等学校、徳島県立徳島科学技術高等学校、愛知県立時習館高等学校、福岡県立東筑高等学校、大阪府立高津高等学校、熊本県立宇土中学校・宇土高等学校
「生徒投票賞」
兵庫県立三田祥雲館高等学校、名古屋大学教育学部附属中・高等学校、奈良女子大学附属中等教育学校、名城大学附属高等学校、鹿児島県立錦江湾高等学校、香川県立観音寺第一高等学校、岩手県立盛岡第三高等学校、埼玉県立熊谷女子高等学校、石川県立小松高等学校 、愛知県立時習館高等学校
◆参加生徒たちの感想
SSH生徒研究発表会に参加した大阪府立天王寺高校の生徒たちから、帰りの新幹線車中から次のような感想が当編集部に寄せられた。
◇初日のポスター発表の前に、東京女子医科大学の岡野先生の講演がありました。先生は、ある器官の細胞を抽出して増殖し、「細胞シート」というものを作って失われた器官を再生するということをなさっています。講演の中で、先生は医学と工学を融合させるべきだと何回も言っておられました。このように、今は学部を越えて知識を応用できる人材が必要なのだと思いました。私は工学部志望なのですが、今回の講演で工学でも人の命を救うことができるのだということが分かったので、新たな進路の道が見えたような気がしました。また、細胞シートを用いれば、近いうちには臓器をまるごと再生することが可能になるそうです。もうすぐ臓器移植をしなくてすみ、ドナーや脳死などといった問題が解決される時代が来るのかなと思いました。私も世の中の人を喜ばせられるような人になりたいです。そういった意味で今回の講演は非常によい刺激になりました。
◇ポスター発表では、はじめは緊張もあって話しかけるのを戸惑ったり、なかなか上手く説明できなかったりしましたが、多くの方に聞いていただいているうちに、伝えたい事を話せるようになりました。他校の皆さんからは、実験内容の素朴な質問や他に考えられる方法の提案などをいただき、交流できて本当に良かったです。他校の先生方や大学の先生方からは実験方法のアドバイスをいただき、さらに教えていただくことも多くて、いい経験となりました。また他校の発表を聞いて、実験内容はもちろんですが、伝え方が同世代とは思えないほどしっかりと要点をまとめたものになっていて、感銘を受けるばかりでした。
◇アピールタイムでは、私たちは英語で発表を行ったのですが、緊張しつつも練習の成果もあって、お客さん1人1人と目を合わせるようにしたり、語りかけるような心持ちで話すのを意識したりすることで、満足のいく発表ができました。質疑応答こそありませんでしたが、大学の先生や、全国から来た同じ高校生など、多くの方々に発表を聞いていただけたことはとても嬉しく、またこの先さまざまな研究をしていく上で、大変有意義な機会だと思いました。
◇科学技術振興機構賞の受賞校の中で、私にとって印象的だったのは、金光学園中学高等学校です。学校の機材のみでイオの公転周期を算出し、そこからレーマー法には欠点があることを見事に導きだしていました。一般的に真実であると信じ込まれているものに疑いの目を向け、さらには自分たちで新たな事実を発見していく姿勢は、今後、科学技術に携わる私たちにとって重要なものになっていくと思います。