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白血病幹細胞を死滅させる化合物

2013.04.19

 成人の血液がん「急性骨髄性白血病」の発症と再発の“主犯格”となる「白血病幹細胞」を死滅させる化合物を見つけたと、理化学研究所や虎の門病院などのグループが発表した。急性骨髄性白血病の中でも最も予後不良な症例に対する新しい治療薬として、開発が期待されるという。研究論文は米科学誌「サイエンス・トランスレーショナル・メディシン(Science Translational Medicine)」(オンライン版、17日)に掲載された。

 理研の免疫・アレルギー科学総合研究センター、ヒト疾患モデル研究グループの石川文彦グループディレクターらは、抗がん剤に耐えながら骨髄と骨の境界に潜み、活動を再開しては多くの白血病細胞を作り出す「白血病幹細胞」こそが、急性骨髄性白血病の再発の主原因であることをつかんだ。この「白血病幹細胞」で働くさまざまなタンパク質のうち、細胞の増殖に関わる「リン酸化酵素(キナーゼ)」を標的に最も強く活性を阻害する低分子化合物「RK-20449」を特定した。

 RK-20449は、試験管内で患者由来の「白血病幹細胞」を低濃度で死滅させただけでなく、ヒトの白血病モデルマウスに単剤で投与しても「白血病幹細胞」に対する有効性を示した。特に「Flt3」という遺伝子の異常によって抗がん剤に抵抗性を示す悪性度の高い白血病症例では、数週間、毎日投与すると白血病モデルマウスの血液中から全てのヒト白血病細胞がなくなり、2カ月後には、骨髄にある「白血病幹細胞」と白血病細胞のほぼ全てを死滅させることができたという。

 急性骨髄性白血病が発症すると、骨髄では赤血球などの正常な血液の産生ができず、貧血状態(真っ白になった骨髄)となる。さらに脾臓(ひぞう)ではヒト白血病細胞が充満し、脾臓の腫大(脾腫)が認められる。白血病モデルマウスに従来の抗がん剤を投与しても貧血と脾腫に改善は認められなかったが、RK-20449を6日間毎日投与したところ、貧血・脾腫ともに速やかに改善した。52日間の毎日投与では、血液中で白血病細胞が再び増加することはなく、骨・脾臓ともに正常に近い外観を示した。

化合物投与による骨髄での白血病細胞減少・正常造血回復・脾腫消失
化合物投与による骨髄での白血病細胞減少・正常造血回復・脾腫消失
(提供:理化学研究所)


〈上段〉 急性骨髄性白血病が発症すると、骨髄では赤血球など正常な血液の産生ができず、貧血(真っ白になった骨髄)になる(中)。脾臓ではヒト白血病細胞が充満し、腫大する(右)。
〈中段〉 従来の抗がん剤を投与しても貧血と脾腫に改善は認められない(中上・右上)。一方、RK-20449を6日間毎日投与すると、貧血・脾腫ともに速やかに改善した(中下・右下)。
〈下段〉 RK-20449を52日間毎日投与すると、骨・脾臓ともに、正常に近い外観を維持した。

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