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視覚障害者のための“聴覚空間認知”訓練システム

2013.04.15

 周囲の音の移動や反射音などを聞きながら空間の様子を感知し歩行することのできる、視覚障害者のための「聴覚空間認知訓練システム」を、産業技術総合研究所(産総研)・アクセシブルデザイン研究グループの関喜一主任研究員や東北大学電気通信研究所、国立障害者リハビリテーションセンター(国リハ)などが共同で開発した。ノートパソコンと動作センサー付きヘッドホンからなる小型・低コスト化したシステムで、いっそうの現場に合ったシステム改善のために、産総研では視覚障害関係者へのソフトウエアの無償提供も始めた。

 これまでの聴覚空間認知訓練では、訓練生は実際の生活環境の中で指導員の指導を受けながら、さまざまな周りの音を聞いて周囲の状況を知る経験を積み重ねていた。しかし、訓練初心者にとっては恐怖を感じたり、危険を伴う場合があり、限られた生活環境でしか訓練を行えないなどの制約もあった。

 産総研と国リハは、自動車などの音を発する物体の位置を知る「音源定位」と、壁や柱などを反射音や遮音などから把握する「障害物知覚」を合わせた訓練方法の開発に取り組み、2005年に「聴覚空間認知訓練システム」を完成させた。しかし、同システムは購入価格が約500万円と高価で、装置自体が大型で持ち運びができないほか、訓練生の頭部の位置・方向を計測できる距離範囲が1メートル以内と狭いため、実際に歩行することはできなかった。

 今回実用化した訓練システムは専用ソフトウエア「WR-AOTS」とパソコン、ステレオヘッドホン、市販のゲームコントローラー(広範囲測位用)を利用して、いっそうの小型化、低コスト化、広範囲化を図った。視覚障害者が歩行の際に用いる聴覚空間認知の手がかりを再現するための3次元音響処理(音源の左右上下前後の再現)はパソコンの汎用CPU(中央処理装置)によって実現した。訓練生の頭部位置の計測は、市販のゲームコントローラーに内蔵されているジャイロセンサーや加速度センサーを用いた。

 これらの改良により、聴覚訓練の経済的負担が大幅に軽減された。また、システムが小型化できたため、訓練生はヘッドホンを付け、パソコンを持ちながら、実際に歩くことができる。盲学校のグラウンドなどのように広くて障害物のない敷地で、安全な訓練が行えるようになったという。

 訓練の現場では、実際の生活環境の中での歩行訓練を行う前に、訓練初心者を対象としたシミュレーション訓練に使用され、視覚障害者の社会参加促進へ貢献するものと期待される。技術の詳細は、今年6月22-23日に新潟市で開催される第22回視覚障害リハビリテーション研究発表大会で発表するという。

視覚障害者のための聴覚空間認知訓練システム
(提供:産業技術総合研究所)
視覚障害者のための聴覚空間認知訓練システム
(提供:産業技術総合研究所)

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