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結婚生活で“育メン”マウスに

2013.03.29

 マウスの雄は交尾未経験のうちは子マウスを攻撃するが、雌マウスと一緒に結婚生活を送ると子育てに励む“育メン”マウスに変わる。以前から知られていたこうした雄マウスの行動変化は、子マウスからのフェロモンを感知する感覚器の働きが雌との生活によって影響を受け、脳部位への神経回路が変化したために起きることが、理化学研究所脳科学総合研究センター・シナプス分子機構研究チームの刀川夏詩子研究員や吉原良浩チームリーダー、親和性社会行動研究ユニットの黒田公美ユニットリーダーらの研究で分かった。

 実験室で飼育されるマウスの雌は交尾未経験であっても「子を保温する」「体をなめて清潔に保つ」「巣を作る」「子を巣に回収する」といった、授乳以外の養育行動を示すが、交尾未経験の雄マウスは、新生児マウス(子)に接すると直ちに攻撃行動を示す。ところが交尾を経験し、妊娠中の雌マウスとの同居を経た雄マウス(父マウス)は、交尾後19〜20 日過ぎて自分の子が生まれる時期になると、他の子マウスに対しても雌マウスと同様な養育行動を示すようになるという。

 こうした交尾未経験の雄マウスの攻撃は、他の雄の子マウスを排除することで、授乳中は抑制されている雌マウスの発情を促し、自らの生殖成功率を高めるためと考えられる。父マウスになったときの子マウスへの「攻撃の抑制」は、自らの子を誤って殺すことがないようにするためとみられる。しかし、子マウスから発せられる知覚情報(匂いやフェロモン、鳴き声、姿形など)は同じなのに、なぜ攻撃から養育へと雄が行動を変化させるのか、その神経機構は分かっていなかった。

 研究グループは、交尾未経験の雄マウスと父マウスそれぞれに、金網ボールに入れた子マウスを提示し、活性化される脳部位を観察した。その結果、交尾未経験の雄マウスでは、鼻腔の下部にあるフェロモンの感覚器(鋤鼻〈じょび〉器)から脳中枢に至る特定の神経回路が活性化され、最終的に、攻撃行動に関与する視床下部の領域が活性化されていた。

 一方、父マウスでは、フェロモンを感知する鋤鼻感覚ニューロンにおいて、すでに活性化は見られなかった。また、金網ボールのために子マウスに直接養育行動を示すことができないにもかかわらず、養育行動をコントロールする「内側視索前野」という脳領域が有意に活性化していた。交尾未経験の雄マウスの鋤鼻器を外科的に切除し、フェロモン情報を感知できないようにすると、子マウスへの攻撃行動が抑制され、養育行動が見られた。

 これらのことから、父マウスは雌との交尾や妊娠雌との同居、分娩時における立ち合いなどの「社会的経験」によって鋤鼻器が影響を受け、子マウスのフェロモンの情報伝達が抑制された結果、養育行動に関連した脳部位が活性化され父性行動を発現することが分かったという。

 今回の知見をそのままヒトに当てはめることはできないが、研究グループは「子マウスへの攻撃行動を誘発する中枢の神経回路を詳細に解明することで、ヒトを含めた哺乳類の父性行動やその異常行動の理解、予防方法の確立に対する貢献が期待できる」と述べている。

子マウスに対する攻撃から養育への、雄マウスの行動変化を制御するメカニズム

子マウスに対する攻撃から養育への、雄マウスの行動変化を制御するメカニズム

 (提供:理化学研究所)

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