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本当にイカは飛ぶ

2013.02.08

滑空するイカの群れ。ヒレや腕と保護膜を広げて体の前後で揚力を発生させている(提供:北海道大学)
滑空するイカの群れ。ヒレや腕と保護膜を広げて体の前後で揚力を発生させている(提供:北海道大学)

 北海道大学・北方生物圏フィールド科学センターの山本潤・助教らの研究グループが、イカが水面から飛び出して着水するまでの一連の様子を連続写真で撮影することに成功した。詳細なイカの飛行行動を明らかにしたのは世界でも初めて。研究結果をまとめた論文はドイツの科学雑誌「マリン・バイオロジー(Marine Biology)」に5日掲載された。

 イカの飛行は2011年7月25日、北海道大学水産学部付属の練習船「おしょろ丸」で千葉県の東方約600キロメートルの北西太平洋を実習航海中に観察された。船首波で驚いたと考えられる約100匹のイカの群れが2回水面から飛び出し、着水までの様子を北海道大学大学院水産科学院(修士課程2年)の村松康太さんと国際基督教大学大学院アーツ・サイエンス研究科の研究員で、鯨類研究家の関口圭子博士が撮影した。

 これらのイカは「アカイカ」か「トビイカ」とみられ、連続写真を解析した結果、飛行行動は、次の4段階に分類できることが分かった。

  1. 飛び出し:外套膜(がいとうまく)内に吸い込んだ水を「漏斗(ろうと)」と呼ばれる噴出口から水を勢いよく吐き出して、水面から飛び出す。このときの姿勢は、水の抵抗を小さくするように、ヒレを外套膜に巻き付け、腕もたたむ。
  2. 噴射:水を漏斗から噴射し続けて空中でも加速し、さらに揚力を得るために、ヒレと腕、腕の間にある保護膜を“翼”のような形にする。空中の飛行速度は8.8-11.2メートル毎秒に達する。
  3. 滑空:水の噴射が終わると、腕とヒレを広げた状態で滑空する。ヒレや腕と保護膜の“翼“を使い、体を進行方向に向かってやや持ち上げた姿勢(ピッチ・アップ)で、バランスを取る。外套膜は緊張状態を保ち、体の前後(ヒレと腕)にかかる揚力に耐えて、空中姿勢を安定させている。
  4. 着水:ヒレを外套膜に巻き付けて腕をたたみ、進行方向に対してやや下がった姿勢(ピッチ・ダウン)を取る。これにより着水時の衝撃を小さくさせている。

 イカは海中では、捕食者などの接近を感じた際に、漏斗から水を何度も噴出し、できるだけ早く危険から逃避する。特に筋肉が発達した外洋性の数種類のイカは、勢いよく水面から飛び出すことが知られ、“イカが空を飛ぶ”として、世界各地で目撃されてきた。しかし単なる“水面からの飛び出し”なのか、本当に“飛ぶ”のかは不明だった。今回の研究で、イカは高度に発達した飛行行動を持つことが分かったという。工業大学名誉教授の奥村善久さん(86)ら5人に「チャールズ・スターク・ドレイパー賞」を贈ることを決めた。19日にワシントンD.C.で授賞式を行う。

 同賞の受賞は、日本国籍としては奥村さんが初めて。他の4人は元モトローラー社のマーチン・クーパー氏、元ベル研究所のジョエル・エンゲル氏とリチャード・フレンキール氏、ノルウェーのトーマス・ハウグ氏。合わせて賞金50万ドル(約4,700万円)が贈られる。

 奥村さんは1926年、金沢市生まれ。旧制金沢工業専門学校(現・金沢大学)卒業。日本電信電話公社(NTT)在職中に、将来の移動体通信を予想して、距離や地形による電波の伝播の研究に取り組み、電波が伝わる環境を分類した「奥村モデル」を提唱するなど、携帯電話システムの基を築いた。70年の大阪万博では携帯電話の試験運用も行った。79年から2000年まで金沢工大教授を務めた。

 同賞は1989年の創設以来、社会に貢献する業績を成し遂げた工学者に授与し、工学分野の米国版“ノーベル賞”ともいわれる。これまで、集積回路(IC)やターボジェットエンジン、コンピュータ言語「フォートラン」、光ファイバー、インターネット、GPS(衛星利用測位システム)、カメラなどの電荷結合素子(CCD)、半導体記憶素子のDRAM、液晶ディスプレーなどの先駆者に贈られている。

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