ふ化したばかりのニホンウナギの幼生は、動植物プランクトンの死骸を主体とするマリンスノーを餌としていることを、海洋研究開発機構の大河内直彦プログラムディレクターや東京大学大気海洋研究所の塚本勝巳教授、マイク・ミラー研究員などの研究チームがつきとめた。成長にとって重要な必須栄養成分の解明などが進めば、ウナギの完全養殖の早期実現につながるという。
ニホンウナギやアナゴ、ハモ、ウツボなどのウナギの仲間はすべて、ふ化から稚魚のシラスになるまでの幼生(仔魚)は「レプトセファルス」と呼ばれ、柳の葉のように扁平で、体が透明な形態をしている。西マリアナ海嶺の南部海山域の産卵場でふ化したニホンウナギのレプトセファルスは海洋の表層-中層を漂いながら成長し、何カ月間もかかって海流に輸送され、日本や中国、朝鮮半島などの沿岸でシラスウナギとなる。捕獲されたシラスウナギは養鰻場で親ウナギになるまで養殖され、出荷されるが、レプトセファルス期に何を食べているのか分からず、完全養殖技術の確立のための鍵となっていた。
これまでレプトセファルスの食性(何から栄養を取っているのか)については、体表から海中の栄養分を吸収するとする「体表栄養吸収説」、海中を細かな「雪」のように漂っている動植物プランクトンの死骸を食べるとする「マリンスノー説」、ホヤの仲間の動物プランクトン「オタマボヤ」の体をおおう袋状の包巣(ハウス)を餌とする「オタマボヤのハウス説」、微小なクラゲなど、ゼラチン質の動物プランクトンを餌とする「ゼラチン質動物プランクトン説」の4学説があった。
研究チームは、生物に含まれるグルタミン酸とフェニルアラニンの窒素の同位体比を用いて食物連鎖の中での位置づけを定量化する「栄養段階推定法」(海洋研究開発機構が2009年に開発)を応用し、ウナギのレプトセファルスの食性を分析した。同方法では、植物プランクトンなどの光合成生物の栄養段階は1.0、この植物プランクトンだけを食べる動物プランクトンは2.0、さらにそれを食べる魚は3.0というように、捕食関係(食物連鎖)で上位にある生物ほど数値が高くなる。その結果、ウナギのレプトセファルスの栄養段階は2.4(±0.13)と、植物プランクトンを専食する動物プランクトンの栄養段階に近く、マリンスノー(栄養段階1.0-1.5)を食べているとすることでうまく説明されることが分かったという。
研究成果は、英国の生物学誌「バイオロジー・レターズ(Biology Letters)」に掲載された。