富士通(本社、東京都港区)と富士通九州ネットワークテクノロジーズ(本社、福岡県福岡市)は、森林などで野外録音した集音データの中からシマフクロウの鳴き声を自動認識し、高精度で抽出するプログラムを開発したと発表した。ヒトの声の認識で開発した音声処理技術を応用したもので、公益財団法人「日本野鳥の会」(事務局、東京都品川区)が北海道東部で行っているシマフクロウ生息域調査に支援を始める。
シマフクロウは全長70センチメートル(cm)、翼を広げると約180cmにもなる世界最大級のフクロウで、アジア極東地域の狭い範囲に生息する。日本では20世紀初頭までは北海道全域に分布していたが、現在は北海道東部の知床、根室、日高地域などで約50つがい、140羽ほどしか確認されていない。絶滅の恐れが最も高い、環境省レッドリストの絶滅危惧IA類に指定されている。
日本野鳥の会では、シマフクロウの生息域や生息数の調査を、従来は10人ほどの調査員が、夕方から夜にかけて生息域に入り、鳴き声を耳で聞いて確認していたが、昨年10月からは、生息域の道路沿いに約500メートル間隔で284個のICレコーダを設置し、翌日回収して分析する方法に切り替えた。回収した3時間分の録音データを市販の音声解析ソフトで再生し、目視による音声スペクトルの確認や試聴によってシマフクロウの鳴き声の有無を人が抽出するものだが、作業に時間がかかり、録音された鳴き声が遠い場合には検知が困難だった。
シマフクロウはオス・メスがつがいで行動し、夕方から夜にかけて同じ場所で鳴き続ける習性がある。富士通の技術者らは、特徴あるオスの鳴き声の音声パターンを録音データの中から自動で認識し、抽出するプログラムを開発した。このプログラムの使用で、3時間分のデータの解析時間は2、3分に短縮され、確認作業での見落とし(聞き落とし)もなくなるなど、調査の精度向上にもつながったという。
今後は、シマフクロウ調査での冬場のICレコーダの設置・回収などの作業を省くために、富士通が開発し、昨年11月から釧路湿原周辺でのタンチョウ調査にも使われている「マルチセンシング・ネットワーク」という遠隔地データ収集システムの活用を検討している。さらに、シマフクロウの個体識別などのより高度な調査にも、ICT(情報通信技術)を活用していく方針だという。