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音波によって物質中に磁気の流れを生成

2011.08.30

 音波によって物質中にスピン(磁気)の流れを作り出す新しい手法を、東北大学大学院 後期博士課程3年の内田健一氏と齊藤英治・東北大学 金属材料研究所 教授、前川禎通・日本原子力研究開発機構 先端基礎研究センター長らが発見した。この手法によれば、あらゆる物質から電気・磁気エネルギーを取り出すことが可能となり、新しい省エネルギー電子技術デバイスの開発につながるものと期待される。

 スピンは電子がもつ「自転」の性質のことで、磁石の磁場の発生源となる。齊藤教授らは2006年に、物質中のスピンの流れ(スピン流)と垂直な方向に電圧が発生する現象「逆スピンホール効果」を発見し、スピン流を電気的に検出できるようになった。

 今回、内田氏らは磁性体と非磁性体を用いた2種類の実験によって、音波によるスピン流の生成効果を実証した。

 1つは、上面に白金薄膜を電極として成膜した絶縁体、磁性ガーネットの単結晶を、音波発生器としてはたらく圧電素子(ピエゾ素子)の上に取り付けた。音波を発生させながら白金電極での電気信号を測定した結果、磁性ガーネットで生成されたスピン流に由来することが分かった。

 もう1つは、非磁性体である単結晶サファイア基板の上に、成膜した白金と磁性金属(Ni81Fe19)の2層ワイヤーを取り付け、温度勾配をもたせた。その結果、白金電極で電気信号を検出し、温度差に伴う「音響振動(フォノン)」を介したスピン流生成を実証した。フォノンはサファイア基板の中にしか存在していないことから、これら2つの実験によって、電気的にも磁気的にも不活性な材料からも、音波やフォノンを介することでエネルギーを取り出し、これを磁性体に与えることでスピン流や電圧を生成できることが示された。

 次世代の電子技術「スピントロニクス」では、スピン流を利用した超低損失な不揮発性磁気メモリーや量子情報伝送の実現が期待されている。スピン流の生成方法としては、電磁波や熱、光を利用したものが提案されており、音波による方法は今回が初めてだという。

 この研究の一部は、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(CREST)の一環として行われた。

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