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プロ将棋棋士の直観は脳の尾状核

2011.01.21

 プロ将棋棋士の直観は大脳基底核の尾状核がかかわっていることを、理化学研究所脳科学総合研究センターの研究チームが突き止めた。長年の集中的な練習によりプロ棋士にはアマ棋士にはみられない特異な思考の回路ができている、と研究チームは見ている。

 脳科学総合研究センターの田中啓治・認知機能表現研究チームリーダー、万小紅(Xiaohong Wan)研究員と程康(Kang Cheng)機能的磁気共鳴画像測定支援ユニットリーダーらは、富士通、富士通研究所、日本将棋連盟と共同で、将棋のプロ棋士が局面の状況を判断し、最善の指し手を決める一連の脳の情報処理をどのように行っているか、機能的磁気共鳴画像(MRI)という手法を使って解明する研究を進めている。

 まず、4-7段のプロ棋士11人と、高段位アマ棋士8人(3-5段)、中段位アマ棋士9人(2級-初段)に実戦的な将棋の盤面(序盤と終盤)を見せたところ、大脳頭頂葉の後部内側にある楔前(けつぜん)部と呼ぶ領域で特異的な活動がプロ棋士だけに見られたことが分かった。将棋の駒を意味なく並べた盤面や本職外であるチェス、中国将棋の盤面を見たときの楔前部の活動は低かったことから、実戦盤面での駒組に特異的に反応するとみなされた。

 次にプロ棋士17人(4-9段)と高段位アマチュア棋士17人(2-4段)に詰め将棋または必至の問題を出した。これは次の一手を直観的に選択するときの脳の活動を見るのが目的であるため、問題を見せるのは1秒だけ、2秒以内に4つの答から正解を選んでもらうという方法をとった。この結果、大脳皮質のいくつかの領域と、大脳基底核にある尾状核の頭の部分(尾状核頭部)が活動することが分かった。次の一手を考える必要のないまったく別の簡単な問題も併せて出し、両方の結果の違いから次の1手の問題にだけ関係すると思われる活動を割り出し、直観にかかわるのが尾状核頭部の活動であることを突き止めた。

 直観ではなく、長考で次の1手を探すテストも行ったが、こちらは大脳皮質の活動しか見られず、またアマチュア棋士の場合は、直観、長考問題のいずれも活動していたのは大脳皮質だけだった。

 これらの結果から尾状核の活動がプロ棋士の優れた直観的思考の神経基盤であると研究チームは結論付けた。

 人間の目から入った信号は、後頭葉の視覚領域から楔前部さらに前頭前野の背外側部という大脳皮質の神経回路を経て大脳基底核の尾状核へ伝わる。この神経回路に加え、楔前部から尾状核の一部へ直接つながる神経回路も存在する。今回の研究では、プロ棋士の脳では楔前部と尾状核の脳活動に関連があることも確かめられた。これは、プロ棋士が将棋盤面の状況を楔前部で処理した後、尾状核へ情報を送って次の一手を導き出していることを示している、と研究チームはみている。

 こうした脳の特異な活動がプロ棋士にみられ、アマ棋士になぜみられなかったのか。研究チームは、プロ棋士は何年もの間、毎日3-4時間の集中した練習を行う結果、初めは大脳皮質内の神経回路だけで行われていた将棋の思考過程が、大脳皮質の楔前部と大脳基底核にある尾状核を直接結ぶ神経回路に埋め込まれていくのではないか、と言っている。

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