地下深部や地表近くで起きるゆっくりとしたすべり現象である「スロー地震」が、南海地震の発生が予測されているすぐそばの海底で連動して起きていることを、防災科学技術研究所と東京大学地震研究所の研究チームが突き止めた。
研究チームは、防災科学技術研究所と国土地理院がそれぞれ運用する高感度地震観測網とGPS(衛星利用測位システム)観測網の観測データから、四国と九州の間の豊後水道と四国足摺岬南方の海底に3種類の「スロー地震」が連動して起きていることを発見した。
これらの「スロー地震」は、豊後水道海底下30キロ付近で観測された「スロースリップイベント」と、同じ区域の30-40キロの深さで観測された「深部低周波微動」、さらに足摺岬沖の深さ5キロという浅い海域で観測された「超低周波地震」。これら3種類のゆっくりした動きはマグニチュード(M)に大きな違いがある。ただし、発生場所が南海トラフで陸のプレートの下に斜めに潜り込んでいるフィリピン海プレートの境界面に沿っているのが特徴だ。
観測データを分析したところ2003年と10年にこれら3種類の「スロー地震」が連動して起きていることが分かった。またこれらの動きが観測された地域は、1946年に起きた南海地震(M8.0)の震源域のすぐ西側に位置する。
研究チームは、「スロースリップイベント」のすべりによってそれより深いプレート境界面上の微小な固着が引きはがされて起きるのが「深部低周波微動」で、「スロースリップイベント」のすべりが表面近くまで及んで周辺のひずみを急激に増大させ、その結果、引き起こされるのが「超低周波地震」という仮説を提案している。
この考え方に基づくと、これら「スロー地震」が観測された地域は、フィリピン海プレートの潜り込み地域でも頻繁にひずみが解消されているため、すぐ東側で南海地震が発生しても破壊域(震源域)にはならない、という説明が可能。「今回の発見は、海溝型巨大地震の規模の予測につながる可能性がある」と研究チームは言っている。
西日本の地下、深さ30キロ付近でもぞもぞと長時間揺れる現象「スロースリップ」が起きていることは研究チームの小原一成・東京大学地震研究所教授(当時、防災科学技術研究所地震観測データセンター長)が初めて見つけた。その後、似たような現象が北米大陸西海岸のカスケード地方などあちこちで見つかったという報告が相次ぎ、地震発生との関連に大きな関心が集まっている。ただし、地震直前にスロースリップ現象が観測されたという報告は今のところない。