ニュース

“働かない”遺伝子の存在理由解明

2010.02.05

 全く働いていないように見えるリボゾームRNA遺伝子に、ゲノム全体の安定性を維持するという重要な役目があることを国立遺伝学研究所の研究グループが突き止めた。

 リボゾームはタンパクを合成する細胞内の小器官で細胞中のタンパクの8割を占める。リボゾームRNA遺伝子は、そのリボゾームをつくるリボゾームRNAをコード(遺伝暗号を指定)する遺伝子。リボゾームRNAは細胞の中にある全RNAのうちの約7割を占めている。動植物の体をつくる真核細胞ではリボゾームRNA遺伝子の数百から数千ものコピーが存在し、これは進化の過程で細胞が徐々に大きくなるにつれてリボゾームもまた多く必要になったためと考えられている。

 問題は、リボゾームRNAをコードするリボゾームRNA遺伝子の膨大なコピーのうち約半数は「転写」というRNA遺伝子本来の機能を果たしているのに対し、残り半数は全く働いていないように見えることが、長年の謎となっていた。

 国立遺伝学研究所の井手聖・研究員、小林武彦教授らは、真核細胞のモデル細胞である出芽酵母を用いて、リボゾームRNA遺伝子のコピー数を減らした場合の変化を調べた。コピーを人工的に減らされた酵母は、紫外線や発がん物質などDNAに傷を付ける薬剤に弱くなることが分かった。さらにその理由を調べたところ、DNAの傷の修復に必要な接着機能が働くなってリボゾームRNA遺伝子が壊れ、その結果、ゲノム全体の安定性に影響を与え、細胞の生育を阻害することが明らかになった。

 ゲノム安定性の低下は、がんとの関係があるとみられている。リボゾームRNA遺伝子のコピー数を減らした出芽酵母を用いた研究を進めることで、より副作用の少ない抗がん剤開発なども期待できると研究グループは言っている。

関連記事

ページトップへ