ものをかむと脳の働きが活発になることを、自然科学研究機構・生理学研究所の研究チームが脳波を使った実験で確認した。外国人スポーツ選手たちがプレー中、ガムをかむ行為に合理的な理由があること裏付けた研究結果、と研究チームは言っている。
生理学研究所の柿木隆介教授、坂本貴和子研究員は、P300という脳波反応を利用して、ものをかむことの効果を調べた。P300というのは何らかの刺激が与えられてから300ミリ秒(0.3秒)後に脳波に出現する反応。脳が活性化すると反応時間が短くなることが知られており、臨床医学では認知症など病気の早期診断にも使われている。
健康な人に5分間、無味・無臭のチューインガムをかんでもらい、直後に音刺激を用いてP300を測定、同時にボタン押しによる反応時間も測定した。この結果、反応時間とP300反応が出現するまでの時間が短くなり、この運動を繰り返せば繰り返すほどその効果は顕著だった。一方、ものをかむ行為と比較するため、顎(あご)の運動はするが実際にはものをかまない行為と顎とは関係ない指の運動(タッピング)をしたときにも同様な測定をしたが、いずれも反応はむしろ遅くなり、P300反応出現の時間も遅くなった。しかも、繰り返せば繰り返すほど遅くなる傾向がはっきりしたという。
「メジャーリーガーが試合中にガムをかむことや、車の運転中にガムかみを行うことによる、脳の覚醒効果の根拠が、生理学的に証明された。ただし、かむことで“頭が良くなる”という説の裏付けではない」と坂本研究員は言っている。