ニジマスの生殖細胞をヤマメの稚魚に移植し、ヤマメからニジマスを産生させることに、吉崎悟朗 氏・東京海洋大学海洋科学部准教授が成功した。この代理親魚養殖技術を大型魚種に用いることでクロマグロの卵を、マサバのような小型魚を代理親として産ませることが可能になると期待されている。
吉崎准教授は、3倍体(染色体が通常の2セットでなく3セットあるため不妊の性質を持つ)のヤマメの稚魚に、ニジマスの精原細胞を移植し、ヤマメの両親からニジマスだけを生産させた。精原細胞は精子の元となる細胞で、これまで精巣で精子にしかならないと考えられていたが、吉崎准教授は、雌の稚魚の腹腔に移植すると卵にもなることを初めて突き止めた。
代理親となるヤマメに3倍体を使ったのは、通常のヤマメに同じ方法を試みると、ニジマスとともにヤマメも産んでしまう可能性があるため。3倍体ヤマメは、ヤマメの受精卵を10℃で培養し、受精から15分後に27℃で15分間処理することで得られる。
クロマグロなど大型回遊魚は、大型であるために卵の採取が困難で、これが養殖を難しくしている大きな原因の一つになっている。今回の技術を用いてクロマグロの卵を同属のマサバのような小型魚を代理親として産ませることができれば、養殖の効率を大きく改善できるとみられている。また、今回、精原細胞は雄の宿主に移植すると精子を生産し、雌の宿主に移植すると卵を生産することが初めて確かめられた。精巣内で精原細胞を経て精子に、卵巣内で卵原細胞を経て卵に分化する始原生殖細胞が非常に少ないのに比べ、精原細胞は精巣に大量に存在している。始原生殖細胞ではなく精原細胞を用いることも有用な魚種を大規模に増産する上で大きな意味を持つ、と吉崎准教授は言っている。
今回の研究開発は、新エネルギー・産業技術総合開発機構の産業技術研究助成事業の一環として行われた。