脳の中にあって神経細胞やグリア細胞などさまざまな細胞になる神経幹細胞が、薬物投与によって増え、神経再生を活性化することを自然科学研究機構生理学研究所の研究グループがマウスを使った実験で明らかにした。
さまざまな病気を治す方法として、人工多能性幹細胞(iPS細胞)や胚性幹細胞(ES細胞)などを病気の個所に移植する再生医療に大きな期待が寄せられている。新しい研究成果は、脳の中にある神経幹細胞を薬物によって増やすという、より簡便な薬物治療の可能性を示すものとして注目されている。
等誠司(ひとし・せいじ)准教授らが注目したのは、リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピンという薬剤で、「気分安定薬」として躁うつ病患者に使われている。通常の使用量に相当する量のリチウムをマウスに3週間投与したところ、神経幹細胞から、神経細胞になる前の神経前駆細胞、さらには神経細胞が活発に産出されることが確認された。
リチウムなど「気分安定剤」の薬効については、詳細な薬理作用が分からないまま、経験的に使われており、通常の約10倍の濃度の薬を投与した場合、神経細胞に効いているという報告がある程度だった。今回の成果は、通常の投与量で神経幹細胞を活性化することを確認したところが新しい点。等准教授は、リチウム以外のバルプロ酸、カルバマゼピンにもリチウムと同様の効果があるとみており「今回の研究によって、おとなの脳にも存在する神経幹細胞が、通常治療に使われている薬物で増えることを示した。ヒトへの応用についてさらに実験を進めたい」と言っている。