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記憶・学習に神経細胞内タンパクのリン酸化が関与

2008.05.16

 記憶・学習機能は、神経細胞をつなぐシナプス中に存在するタンパクのリン酸化がとっかかりになっていることを、理化学研究所脳科学総合研究センターの研究者たちが突き止めた。

 これまで記憶や学習は、シナプス後部のタンパクが変化することによると考えられていたが、詳細なメカニズムは明らかになっていなかった。

 脳科学総合研究センター発生神経生物研究チームの、御子柴克彦チームリーダー、水谷顕洋研究員らは、小脳にあり記憶・学習に中心的な働きをすることが分かっていたプルキンエ細胞に存在する、Homer3というタンパクに着目した。生化学的手法を用いて調べたところこのタンパクがシナプス後部だけでなく、一部が可溶性の区画にも存在していることが分かった。シナプス後部にあるべきタンパクが可溶性区画で見つかった理由は、タンパク分子が一部リン酸化(タンパク1分子当たり少なくとも3カ所)したことによって可溶性に変わったためであることも、電気泳動法による解析の結果、明らかになった。

 また、細胞内でカルシウムイオンが上昇すると活性化することが知られていたタンパク質リン酸化酵素(カルシウムカルモデュリン依存性キナーゼⅡ)によって、このリン酸化が起きていることも突き止められた。

 これらの結果から研究グループは、小脳のプルキンエ細胞のシナプス後部にあるタンパク「Homer3」は、神経の活動によって活性化されたタンパクリン酸化酵素の働きでリン酸化され、この結果、「Homer3」によって結びついていたタンパク複合体の柔軟化がもたらされると結論づけた。このシナプス構造の柔軟化が、記憶と学習機能の契機となるとみており、この考えを実証するため、Homer3のリン酸化部位を破壊したノックインマウスをつくってさらに研究を進めたいと言っている。

 この研究成果の一部は、科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業によって得られた。

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