子どものえさとなる花粉と蜜を集めるのはメスに任せ、自分のために蜜を吸うだけとみられていたハナバチのオスも花粉の媒介に一定の役割を果たしていることが、森林総合研究所の調査で明らかになった。
森林総合研究所の杉浦真治研究員らは、小笠原諸島固有のハナバチの一種で、体長が1センチに満たないオガサワラコハキリバチの行動を同諸島の兄島で観察した。兄島ではオガサワラコハキリバチのオスは、6月ごろ、小笠原固有の植物であるムニンヒメツバキの花を頻繁に訪れる。ムニンヒメツバキの花の中心におとり役としてオガサワラコハキリバチと、ほかの昆虫の標本、さらに単なるプラスチック片を置いて、5分間でオガサワラコハキリバチのオスがどのくらい訪れるか観察した。
標本、プラスチック片を置いた花には、何も置いてない花に比べて明らかに頻繁にオガサワラコハキリバチのオスが訪れることが確認され、オスの訪花行動が、他の昆虫の存在によって促進されていることが明らかになった。また、標本を置いた花を訪れたオスと花の上を飛び回っているオス双方を採取し、調べたところいずれも体の表面に花粉がついていることが確かめられた。
これらの観察結果から、オスは吸蜜しようとしているメスと交尾するため、あるいは自分の栄養源として蜜を吸う目的だけで花を訪れるのではなく、他の種類の昆虫を追い払おうとして頻繁に花に触れ、その結果、花粉を媒介し、花の受粉にもメス同様、役立っていることが明らかになった。
他のハナバチ類でもメスが訪れる花の周囲でオスが縄張り行動をする種が多数知られていることから、ハナバチ類のオスによる花粉媒介は、オガサワラコハキリバチ特有の行動ではなく、より一般的な現象である可能性がある、と研究者たちは言っている。
小笠原諸島に固有のハナバチ類は、人が持ち込んだグリーンアノールやセイヨウミツバチなどの外来種によって減少し続けており、オガサワラコハキリバチは、父島では約30年間、採集記録も観察記録もない。無人島の兄島には、現在でも豊富に生息している。