情報を伝える担い手である神経伝達物質の流れをコントロールしているタンパクを、三菱化学生命科学研究所と自然科学研究機構・生理学研究所の研究者たちが見つけた。脳神経精神疾患の新たな治療薬開発にもつながる成果と期待されている。
瀬藤光利・生理学研究所助教授(三菱化学生命科学研究所グループリーダー兼務)、矢尾育子・三菱化学生命研究所研究員らは、ユビキチン・プロテアソーム系と呼ばれるタンパク分解の仕組みが、神経細胞と神経細胞の間で情報の受け渡しを担っている神経伝達物質の放出にかかわっているのでは、と狙いをつけた。ヒトゲノムのデータベースに基づいて探索した結果、“壊し屋タンパク質(SCRAPPER)“と名付けた分解酵素を発見、実際にこの酵素が、生体内において神経細胞の先端から神経伝達物質が異常に放出するのを抑えて、適度に放出されるよう調節していることを突き止めた。
脳内の情報のやりとりは、シナプスと呼ばれる神経細胞同士のつなぎ目を介して行われることが早くから知られている。脳梗塞、アルツハイマー病、統合失調症、うつ病などの精神疾患で、神経伝達物質の異常放出が起きていることも推測されている。しかし、このシナプス中にあるシナプス小胞に入った神経伝達物質が、次の神経細胞に放出される仕組みは分かっていなかった。
この研究成果は、7日発行の米国の医学生物学誌「CELL」に掲載されたが、“壊し屋タンパク質”をイメージした漫画家、荒木飛呂彦氏によるイラストが、同誌の表紙を飾っている。