有機ナノチューブを利用し、内径わずか50ナノメートル(ナノは10億分の1)というピペットを作り出すことに産業技術総合研究所、名古屋大学、東北大学の研究チームが成功した。
このピペットを用いると、わずか1フェムトリットル(千兆分の1リットル)以下の溶液を噴出することが可能になる。これは現在、市販されている極微量ピペットに比べて百分の1〜1万分の1という噴出量に相当する。1個の細胞内へ超極微量の物質を注入するような医療への応用や、超極微量の成分を吸引することが必要となる単一細胞の分析などへの活用が期待されている。
産業技術総合研究所・界面ナノアーキテクトニクス研究センターの清水敏美・研究センター長らは、同研究所が開発した技術で作られた有機ナノチューブ構造体を、名古屋大学と東北大学の開発した3次元マニピュレーション技術によって、細いマイクロガラスピペットの先端部に取り付けた。有機ナノチューブを中空のマイクロガラスピペットにしっかり固定するためには紫外線硬化性樹脂を使った。高価な装置を使わずに、操作しやすく強度も優れたナノピペットを作り出す利点を持つ。
生体分子の分離分析にはできるだけ細いピペットが望ましいが、これまでの技術では内径1マイクロメートル(百万分の1メートル)以下の中空シリンダー構造(ピペット)を直接、微細加工するのは難しかった。
有機ナノチューブは、1984年ごろ日米の独立した3つの研究チームが偶然、見つけた極微細なチューブ状物質。水に溶けやすい部分(親水部)と水に溶けにくい部分(疎水部)を一つの分子中に持つ脂質分子が水中で自発的に集合して、中空繊維状の構造体を形成するという性質を持っている。