レビュー

中小・ベンチャー企業の技術を生かせる公共調達の仕組みづくりを

2017.10.31

中村 直樹

 内閣府が10月25日から「オープンイノベーションチャレンジ2017(中小・ベンチャー企業による公共調達の活用推進プログラム)」を公募している。各省庁の公共調達に直接参加できない中小・ベンチャーの技術を公共調達に活用するため、中小・ベンチャーの技術開発の側面支援と公共調達参加企業などとのマッチングを行うのが狙いだ。

 日本の公共調達は一般的に、契約後のメンテナンスや保証などを担保するため、規模が一定以上で経営状態がある程度安定している企業しか参加できないようになっている。このため、大企業が公共調達に参加し、落札した後に下請け企業に仕事を回す、という構造になっている。この時、何が起きるかというと、調達を行う関係省庁が意図したことを大企業が解釈して、調達内容を細分化した上で下請け企業に仕事を下ろす。このため、本来下請け企業もしっかり理解しておくべき正確な意図を下請け企業が知らないことが多い。関係省庁と下請け企業との間でのコミュニケーションがないため、結果的に技術のある下請け企業にとって「それなら、こういうふうにした方が絶対に良いものができたのに・・・」ということになる。技術力を生かせない下請け企業も、調達金額に見合った十二分な結果を得られない関係省庁も、結果的にお互いが不幸になっている。

 一方、政府の未来投資戦略2017のSociety5.0の実現に向けた改革では、政府調達で研究開発型中小・ベンチャーの活用を促進するという試行的な取り組みを今年度中に開始することになっている。このため内閣府は、各省庁の公共調達において解決が求められている技術的課題を関係省庁から集めて、その技術課題に取り組む中小・ベンチャーを支援する−。このような狙いで「オープンイノベーションチャレンジ2017」を開始した。初めての取り組みとなる今回は、警察庁、消防庁、海上保安庁が持っている現場の具体的なニーズをもとに9つのテーマを設定した。

 具体的には、(1)遠方の水難要救助者に対し正確かつ安価に救助資材を搬送する手法(2)火災現場等において無線機器等の音声を支障なく聞き取る手法(3)濡れた火山灰等での捜索等の活動時間を短縮する手法(4)車両を強制的かつ安全に停止させる手法(5)雑踏において一般市民に混在する不審者を発見・検知する手法(6)個人が徒歩で警備・救助等を行う際、放射線を可視化する手法(7)係船・曳航作業における作業員の負担軽減・作業時間の短縮に資する手法(8)海洋を航行する船舶のメンテナンス作業を軽減させる手法(9)海上において周囲に対し昼夜問わず明確に情報伝達等をする手法−の9つだ。

 これらの課題に対し、さまざまなアイデアを生かした技術とその技術を幅広く展開するためのビジネスモデルなどの提案を公募し、内閣府が設置する技術審査委員会で内容を審査する。審査を通過した企業は、内閣府が準備するアドバイザーからの助言を受けながら、6カ月間、実現可能性調査(フィージビリティ・スタディ)を実施する。来年6月末頃に、各省庁の主契約企業や関係市場に展開する企業とのマッチングイベント(ピッチイベント)を実施することで、中小・ベンチャー企業の技術を公共調達だけでなく、技術を幅広い分野で展開する支援をするという。

 中小・ベンチャーにとってのメリットは、普段コンサルタントやベンチャー投資を行っている専門家からのアドバイスが無料で受けられることだ。アドバイスに従って技術を改良することで、新たなビジネスの種になる可能性もある。フィージビリティ・スタディ期間の研究開発費については、原則自己負担だが、何らかの支援ができないかを検討中だという。

 いずれにしろ、中小・ベンチャーを公共調達に直接参加させることは、現在の制度では難しいが、こうした取り組みが進むことで、公共調達のあり方そのものを見直すきっかけになるかもしれない。

図「オープンイノベーションチャレンジ2017(中小・ベンチャー企業による公共調達の活用推進プログラム)」の事業スキーム(内閣府提供)
図「オープンイノベーションチャレンジ2017(中小・ベンチャー企業による公共調達の活用推進プログラム)」の事業スキーム(内閣府提供)

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