レビュー

予知に対する地震学会の見解

2012.10.29

 新聞各紙は17日付ないし18日付の紙面で、地震予知が困難であることを認める「行動計画」を日本地震学会がまとめた、と報じた。函館市で開かれていた日本地震学会秋季大会で17日、公表されたという。

 日本地震学会自体は、どのように説明しているのかホームページをのぞいてみる。

 「学会員向け最新情報」として「『日本地震学会の改革に向けて:行動計画 2012』の概要」が23日付で掲載されている。6つ掲げられた提言の1つとして「“地震予知”への取り組みを見直すべき」があった。その中で次のように書いている。

 「対応:用語の整理に基づいて、“地震予知”に関する誤解や無用な議論を避けると共に、地震発生予測の研究の現状をアウトリーチ活動を通じて社会に伝えていく」

 「一般向けの最新情報」としては26日になって、初めて簡単にこの行動計画が説明されている。「地震に関するFAQ」という既存のページに1項目を新たに追加するという形でだ。

 「地震学会は、地震予知ができないと認めたのでしょうか? 地震学会は地震予知研究をやめたのでしょうか?」という新たな問いに対する答えは以下のようになっている。

 「現時点で地震予知(警報につながるほど確度の高い地震予測)を行うのは非常に困難であるとの認識を述べているものであり、将来的に地震予知はできないとの意見を表明しているものではありません」

 これだけの説明で、よく理解できた人はどのくらいいるだろう。「学会員向け最新情報」をさらに探すと、9月12日付で「日本地震学会2012年秋季大会特別シンポジウム『ブループリント』50周年—地震研究の歩みと今後」の案内記事があった。この中のプログラム&予稿集 pdf版を見ると、地震学者の間でもいろいろ意見があることがようやく読み取れる。「地震予知研究発展のための観測調査の基盤を整えるという大きな使命を果たすことができた」。これまでの地震予知計画を評価する津村建四朗氏(元気象庁地震火山部長、元山形大学理学部教授)のような人がいる一方、逆の意見も紹介されている。

 ロバート・ゲラー東京大学大学院理学系研究科教授の主張が最も明快だ。「予知」(という言葉)は「予算獲得のスローガンとして使用された」と指摘し、「予知計画に正式に幕を引き、新たに地震科学の基礎研究・地震防災計画を設立すべきであると考える」と言い切っている。

 国際的に著名な地震学者である金森博雄米カリフォルニア工科大学名誉教授も、「教育研究活動の強化と独創的かつ柔軟な考え方のできる人材の育成、研究結果と社会の要請のタイムスケールの違いを認識したコミュニケーションと長期防災対策の改善、およびリアルタイム地震学の手法の開発を三つの柱とした研究で地震学は社会の要請の答えるべきと思う」と提言している。「リアルタイム地震学」とは、大地震発生後に迅速にデータを収集・解析し、地震波到達直前の強振動予測に活用する研究分野を指し、提唱者である金森氏はこうした業績で2007年に京都賞を受賞している。氏も、予知以上に優先されることがある、という考えの持ち主ということだろう。

 東海地震対策を目的に1987年にできた大規模地震対策特別措置法は、東海地震の直前予知は可能ということを前提にしている。この法律によって地震予知のために多くの予算が投入されてきており、いよいよ地震の発生が予知された際は、気象庁長官の下に設置された判定会(地震学者で構成)の判断を受けて、首相が警戒宣言を出すことになっている。

 今回、日本地震学会が示した行動計画により、日本の地震対策も見直さざるを得ないのでは、と「一般」の人々は受け止めるのではないだろうか。

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