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1番でなくてもよい

2010.11.26

 「何も1番である必要はない。後発であってもよりよい仕組みを作ることが大事」。総合科学技術会議の本庶佑議員(免疫学者)が、変わった言い方で、ゲノム情報と電子化医療情報などの統合によるゲノムコホート研究を国家プロジェクトとして立ち上げる必要を訴えた。

 24日、内閣府がプロジェクト実現を目指し「コホート研究ワークショップ」という公開の会議を開いた。コホート研究の実績を持つ国内の研究者16人という大勢の報告者、パネリストが参加したこともさることながら、終始、本庶氏が会の議論を主導したのが目を引いた。

 コホート研究は、大規模になればなるほど実施にあたっては研究者のチームワークに加え、膨大な調査対象者、協力者の理解、支援が不可欠とされている。長年、苦労を重ねたこともあり、さまざまな問題点などを説明したがる発言者に対し、パネルディスカッションを司会した本庶氏が大規模コホートプロジェクトを立ち上げるための前向きの提案を促す場面も何度か見られた。

 本庶氏の開会あいさつによると、来年度にパイロット研究を立ち上げ、その成果を基に最低10万人できれば50万人規模の対象者を20年間追跡調査する国家プロジェクトを2013年度に立ち上げたいというものだ。目的は、学術的な成果とともに予防医学の適切な標的疾患の選択、過重医療の防止、引いては医療費削減といった医療への貢献にある。環境省が今年度からスタートさせた子どもの健康と環境に関する影響調査(エコチル調査)とも緊密な連携を図る。また文部科学省で進んでいるライフサイエンス分野のデータベース一本化の拠点づくりとも連携し、コホート研究で得られた情報はすべてここに集め、研究者たちが自由に利用できるようにする、というものだ。

 コホート研究については、国家規模のプロジェクトと呼べる大規模の研究が日本ではこれまでなかった。例えば「小さく産んで大きく育てる」という長年の通説が、実は全くの誤りであることが科学的に裏付けられた例が、よく挙げられる。胎児期に低栄養状態であることが成人になってからの心筋梗塞(こうそく)や高血圧など心血管障害のリスク因子になるということが明らかになったためだ。これは、大勢の人々の健康と生活環境に関するデータをとり続けた英国の大規模コホート研究の結果、出生児の体重と50年後、60年後にどういう病気にかかっているかの関係が突き止められたことによる。

 本庶氏の「何も1番でなくてもよい」という発言は、大規模コホート研究が国際的に見ると立ち後れている現実を踏まえたものである。「日本人は外国人と遺伝子も違うし、生活習慣も異なる。英国のデータをそっくり輸入しても予防医学の構築は不可能だ。何もしないと本当に落後してしまう」。さらに研究は国際標準に沿って行いアジア、欧米との連携も図る、としている。

 大規模コホートは、調査対象者に偏りが出たら意味がないので、膨大な数の市民の協力がなければスタートできない。メディアの理解も不可欠なことを本庶氏は強調していた。

 果たして氏の願いは、一般国民にまで届くだろうか。

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