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『舵取り』から『漕艇』へ

掲載日:2008年8月26日

日本学術会議の報告「自然共生型流域圏の構築を基軸とした国土形成に向けて - 都市・地域環境の再生 -」は、大都市への人口集中と、人口減少で地域固有の文化の継承さえ困難になっている地方都市、農山村によって、自然災害に対しても脆弱(ぜいじゃく)化してしまった日本社会の現状に警鐘を鳴らしている(8月25日ニュース「自然共生流域圏見直す国土再生を提言」参照)。

「地方・農山村から大都市へ一方的に各種資源が移動し、その一方で工業生産と輸出によって得た資金を農山村・地方へ補助金や公共工事の形で再配分していた」。これまでの日本の姿をこのようにとらえ、「国家財政の悪化、農山村の人口減少・高齢化の進展や、地方において産業が育たなかったことにより、この再配分の枠組みは終焉(えん)を迎えており、これまでの社会構造がたち行かなくなっている」と診断している。

報告の中に、行政の在り方として、旧来の「舵(かじ)取り」型から「漕(そう)艇」型への転換が求められている、という指摘がある。日本の地方都市と農山村では「自動車に依存する分散型社会が生まれ」、その結果、「人的交流機会が希薄となっている」。これを「自然地形である分水嶺に囲まれた流域圏」を基盤にした伝統的な国土・社会に再構築するには行政側にも大きな意識改革が求められているというわけだ。

報告は「地域の環境の問題は、日常接している地域住民が最もよく知っていると考えられる。計画調整すべき課題の発議は、住民からも発せられる必要があるが、現行の国土利用計画法の制度の中では手続き的に保障されていない」と基本的な問題点を指摘し、さらに「現行の制度の中でも市町村 - 都道府県 - 国の双方向コミュニケーションにも課題がある」としている。「舵取り」型の伝統的行政手法ではなく、他のこぎ手と一緒にボートをこぐ「漕艇」型の手法に変えないと、自然共生型流域圏の再構築も都市・地域環境の再生も難しいということだ。

望ましい「漕艇」型の行政以外のこぎ手として市民や事業者とともにNPOを挙げ、NPOの働きで子どもたちの環境学習などに利用されるなどの市民参加を呼び込んだ催し「川の日ワークショップ」の例を示している。

また、NPO、市民、事業者の社会的ネットワークに行政が参加した「大胆な発想転換」の例として、霞ヶ浦の環境・地域再生プロジェクト「アサザプロジェクト」の成功例も挙げている。

特定非営利活動促進(NPO)法が施行されて10年になる。報告は、力のあるNPOが十分に育っていない現実も併せて指摘しており、現行NPOの限界の一因として「税の優遇措置」を挙げているのが注目される。

「舵取り」役に慣れきっている行政が、「漕艇」の一こぎ手の役を十分にこなせるかどうか。十分な税の優遇措置を導入してNPOを支援する方向に政治や行政が舵を切れるかどうか。NPOとともに有力なこぎ手役に挙げられている市民の声が、かぎを握りそうだ。

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