レビュー

塾の禁止?-大学広報誌拾い読み

2007.08.17

 教育再生会議の会合で野依良治座長が、「塾の禁止」を主張した、と新聞記事で報じられたことを引用、「大いなる共感を覚える」と、松本道介・中央大学名誉教授(西洋史)が、中央大学の広報誌「Hakumonちゅうおう2007年早春号」に書いている。「塾という名の学校は一種の“産業”となっており、政府がそんな“産業”を禁止するなどできるわけはない」と、断った上でのことだが。

 塾もなければ、テレビ、洗濯機、クルマ、エアコンもなく、電話、ラジオさえほとんどない。しかし「時間だけはじゅうぶんにあった」子ども時代を振り返って氏は、今の子どもたちについて次のように書いている。

 「塾をはじめテレビにテレビゲームにケータイにウォークマンそれにパソコン等、やることはいっぱいあり、食事の時間、睡眠の時間を減らすくらいいそがしいのになぜか退屈そうだ。それはたぶん…、ほとんどすべてのものが“退屈しのぎ”の“ひまつぶし”に見えるからである。…いずれも身体を動かさず頭をほとんど使わず、常に受け身でいることができるからだ。…人間というものはどう見ても動物である。…汗を流して身体を動かし頭を使って食べ物を探すのが動物本来の姿である。…動くことが生きることだとすれば人間自身は五十年前の人間の十分の一くらいしか生きていないのかもしれぬ。あと十分の九は文明の機器によりかかっての“退屈しのぎ”、まるで機械中毒、文明中毒にかかった半病人のような生活を送っている」

 その結果「教育の再生などおよそ無理だし、人間の活力の回復も望み薄」という悲惨な事態に陥っているというわけだが、氏は「1人1人の人間の努力が禁止されていない」ことに唯一、救いを見ている。

 「子どもが自分で塾をやめることは禁止されていないし、スポーツであれ音楽であれ農作であれ、個人がからだを動かして自分の頭を使う努力をすることはいささかも禁止されていないのだ」と。

 (引用は「Hakumonちゅうおう2007年早春号」の「ときには、辛口・塾の禁止?」から)

ページトップへ