レビュー

イノベーション25で変革を求められているのは

2007.03.01

 「具体性に欠ける」。政府や審議会がまとめた報告書などに対するマスコミの常套的な批判である。しかし、イノベーション25戦略会議(座長・黒川清内閣特別顧問)が26日公表した「イノベーション25中間とりまとめ」に対する反応は、ちょっと違うようだ。

 高市早苗・内閣府特命担当大臣が、実際に自分で書いたという序言は、「『日本人の価値観の大転換』を求めることになるかもしれない新たな挑戦は、政府が傷だらけになる覚悟と勇気を持って国民に問題提起をし、目指すべき日本の未来像を国民と共有する努力をしなければならない」という言葉で結ばれている。

 黒川清座長が書いた「基本的な考え方」でも、イノベーション25戦略会議の目指す方向は明快だ。

 「基礎研究の成果、開発研究の成果、発明、技術革新などだけでは『イノベーション』とは言わない。このようなプロセスを起こしやすくする『場』(『エコシステム』と呼ばれる)の形成が国のイノベーション政策の根幹である」

科学技術に限定した話ではない、ことをこのように明言したうえで、「真にイノベーティブな社会」は、「科学的根拠に基本をおいた政策研究と、そこへの誘導をする、適正な、複数の政策の立案と選択肢の提示、メリハリの利いた政治的判断と導入こそが、それを実現する」と断じているのだ。

 日経新聞27日朝刊の社説は、見出しが「覚悟が要るイノベーション」だった。

 「イノベーションにそぐわぬ諸制度、行政組織を刷新する意気込みを明確にすべきだろう」、「イノベーションは既得権益の破壊も求めるから、それなりの覚悟がいる。…その気迫がまだ見えていない」と、厳しい視線はいつもと変わらない。

 しかし、「恒常的にイノベーションを起こす仕組みをつくろうとする」イノベーション25戦略会議の方向は、きちんと評価している。

 今後の大きな問題の一つは、高市大臣がまさに言っているように「日本人の価値観の大転換」を求めるような中間とりまとめの内容を、どこまで国民と共有できるか、ではないか。中間とりまとめの一部、2025年時点の未来予測「伊野辺(イノベ)家の1日」を報じた記事を読んでもらったくらいでは、まず無理だろうから。

 産経新聞28日朝刊、オピニオン面「正論」欄に載っている坂村健・東京大学教授(イノベーション25戦略会議委員)の論説が、問題の難しさを明確に示しているように見える。

 「日本の議論を聞いていると『イノベーション』については、欧米と比べ意識の点で出発点から大きくずれているのではないかと、最近思うようになった。…欧米の包括的なイノベーション政策に比べ、どうしても日本の政策は従来と同じような産業政策を踏襲しているようにみえる」

 「具体的なターゲットはむしろ、イノベーションに必要な多様性と人材や資源の機動性を阻害する要因となる。…目標指向型の政策立案はもはや過去のもの。…日本も目標指向型から環境整備型に舵をとることを、はっきりと国民に示さないといけない」

 これを読んで、高市大臣の言葉がよく理解できたと感じる人も多いのではないだろうか。「政府が傷だらけになる覚悟と勇気を持って国民に問題提起をし、…」という。(日経、産経新聞の引用は東京版から)

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