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イネの根の張り方を制御する遺伝子発見 塩害対策に期待

2020.09.02

 根の張り方を制御する遺伝子をイネで初めて発見し、これを使い塩害に強いイネの開発に成功した、と農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)などの研究グループが発表した。塩害を受けた水田では土壌が酸欠になりイネの生育を妨げるが、この遺伝子により根を地表に張らせることで、収量の減少を抑えることに成功した。高潮や津波などによる塩害に強い品種の開発に役立つと期待される。

地表に根が伸びると、塩害を受けた水田でもイネが土壌の酸欠を回避できることを示す概念図(農研機構・東北大学・産総研提供)
地表に根が伸びると、塩害を受けた水田でもイネが土壌の酸欠を回避できることを示す概念図(農研機構・東北大学・産総研提供)

 農研機構と東北大学、産業技術総合研究所(産総研)のグループは、インドネシアのイネの在来種「Gemdjah Beton」からこの遺伝子「qSOR1(キューソルワン)」を発見した。qSOR1は根が重力を受けて伸びることに関係しており、この品種ではこの遺伝子が働かず、根が地表に張ることが分かった。

 そこで、地表に根を張らないイネ「ササニシキ」のqSOR1を、Gemdjah Betonのものと入れ替えたところ、根が地表にも張るようになった。次に、qSOR1を入れ替えたササニシキと普通のササニシキの収量を比べると、通常の水田では変わらないが、塩害があるとqSOR1を入れ替えた方が、普通のササニシキより粗玄米で15%以上も収量が多かった。Gemdjah BetonのqSOR1により根が酸素の豊富な地表に伸び、塩害を受けた土壌の影響で酸欠に陥るのを避け、生育を改善できることが分かった。

Gemdjah BetonのqSOR1遺伝子をササニシキに入れたところ、根が地表にも張るようになった(農研機構・東北大学・産総研提供)
Gemdjah BetonのqSOR1遺伝子をササニシキに入れたところ、根が地表にも張るようになった(農研機構・東北大学・産総研提供)

 グループが過去に発見した別の遺伝子「DRO1(ドロワン)」も、根の形に関わることが分かった。そこでqSOR1とDRO1を組み合わせ、4パターンのイネを育てた。すると、両方の遺伝子が共に働くイネでは根が最も深く伸び、両方が機能しないと根は浅く伸びるなどの結果となった。遺伝子の組み合わせにより、根の形を自由に変えられることが分かった。

2種類の遺伝子を組み合わせた実験。両方が共に働くイネ(左)では根が最も深く伸びた(農研機構・東北大学・産総研提供)
2種類の遺伝子を組み合わせた実験。両方が共に働くイネ(左)では根が最も深く伸びた(農研機構・東北大学・産総研提供)

 qSOR1を活用した品種改良により、高潮や津波の水田の被害軽減や、老朽化し酸欠に陥りやすい水田などでの収量アップに役立ちそうだ。バングラデシュやベトナムなどの沿岸部で頻発する塩害対策にも貢献できるという。qSOR1の仲間は多くの作物に存在するため、ダイズやトウモロコシなどにも応用する期待が持てる。

 イネの塩害対策の研究は従来、浸透圧やナトリウムイオンの取り込みなどに関係する遺伝子を対象とするものが多かったという。グループの東北大学大学院農学研究科の佐藤雅志学術研究員(遺伝生態学)は「イネ自体の耐塩性よりも、耐塩害という視点を持ち、土壌の酸欠状態に着目して研究した。根に着目した研究を広めたい」と述べている。

 成果は8月17日発行の科学誌「米国科学アカデミー紀要」の電子版に掲載された。

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