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新型コロナ患者で起きる免疫暴走の引き金物質を発見 阪大グループ

掲載日:2020年8月31日

大阪大学の研究グループは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)早期に起き、重症化を招く免疫反応の暴走「サイトカインストーム」の引き金となる物質を発見した、と発表した。血液凝固を促進する「PAI-1」というタンパク質で、PAI-1が増えたCOVID-19の患者は、肺などに血栓ができて重症化していた。この成果は新たな治療法開発につながると期待される。

研究論文は22日に米科学アカデミー紀要に掲載された。COVID-19の患者では生理活性物質サイトカインの一つ「インターロイキン6」(IL-6)が血中に増加し、このIL-6が血管からPAI-1を放出。血栓が形成されてサイトカインストームに至り、重症化する仕組みを解明したという。

新型コロナウイルスの感染により、血中のIL-6がPAI-1を介して血栓形成を促進し、サイトカインストームの引き金になることを示す概念図。抗体医薬品「アクテムラ」がIL-6の働きをブロックする(大阪大学提供)
新型コロナウイルスの感染により、血中のIL-6がPAI-1を介して血栓形成を促進し、サイトカインストームの引き金になることを示す概念図。抗体医薬品「アクテムラ」がIL-6の働きをブロックする(大阪大学提供)

COVID-19では肺でひどい炎症が起こり、多臓器不全に至って死亡する例も多い。その過程で、免疫機構で重要な役目をするサイトカインが制御不能になって、過剰な免疫反応と言えるサイトカインストームが起きることが分かってきた。この過剰な免疫反応は細菌感染でも起こる。COVID-19でも全ての感染者に起きるわけではなく、高齢者や基礎疾患がある人に起こる例が多いとされているが、詳しいメカニズムは未解明だった。

今回成果を発表したのは、大阪大学免疫学フロンティア研究センター免疫機能統御学の姜秀辰(カン・スジン)助教、岸本忠三特任教授らのグループ。岸本特任教授はIL-6を発見したことで知られる。姜助教らは、サイトカインストームが起きた91人の血液を健康な人の血液と比較した。

その結果、サイトカインストームが起きた人は、健康な人と比べてPAI-1が顕著に増えていることが判明。患者のPAI-1レベルは、細菌性敗血症や重症のやけどの患者に匹敵する高さだった。また、重症の新型コロナ患者のPAI-1の量を調べたところ、その量も全身の炎症程度を示す数値もいずれも上がっていたという。

PAI-1は血管内皮細胞や肝臓、血小板などに存在するタンパク質で、血管内皮が損傷したり、血小板が壊れたりして血中に放出される。血中量が増えると血栓の成長が促される。研究グループは、増えたPAI-1により肺など多くの臓器で血栓ができ、血管から生体維持に重要な液性成分を漏出させて肺炎を重症化させるとみている。

姜助教らの研究グループは、血管内皮細胞をIL-6で刺激する実験も行った。するとPAI-1が増えた。この現象はIL-6の働きをブロックする抗体医薬品「アクテムラ」(一般名・トシリズマブ)により抑えられたという。このことから同グループは「COVID-19でもIL-6が上昇する早期にアクテムラを投与すればPAI-1の産生を抑えることができ、これが有効な治療になると予測される」としている。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の電子顕微鏡画像(提供・米国立アレルギー感染症研究所(NIAID))
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の電子顕微鏡画像(提供・米国立アレルギー感染症研究所(NIAID))
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