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液体なのに結晶のような酸化物、宇宙実験などで解明

2020.06.09

 希土類元素の一つであるエルビウムの酸化物(Er2O3)は、高温で溶けて液体になっても原子が規則的に並んでおり、結晶のような構造をしていることが分かった、と宇宙航空研究開発機構(JAXA)、物質・材料研究機構などの国際研究グループが発表した。国際宇宙ステーション(ISS)での実験や大型放射光施設「SPring-8」(兵庫県佐用町)での分析などによる成果で、ガラスに関する理解や、スマートフォンの高性能ガラスの開発などに幅広く役立つ可能性があるという。

 人類はガラスを紀元前から加工して利用している。主に酸化物が原料で、原子や分子が結晶のように規則正しく並ばず、不規則なまま冷えて固まったものだ。原料を加熱し液体にしてから急冷して作るが、このときにガラスになる物質と結晶になる物質との違いは、いまだによく分かっていない。これを原子や電子のレベルで解明することが大きな課題となっている。

 従来の研究はガラスになる酸化物液体の構造解明が焦点だったが、グループは方針を転換し、ガラスにならないことが分かっている液体に注目。その一つであるEr2O3の原子配列や電子状態の解明を試みた。

 ただEr2O3は融点がセ氏2413度と極めて高く、液体だと容器と反応するなどして実験が難しい。そこでグループはISSの日本実験棟「きぼう」にある分析装置「静電浮遊炉」で、静電気でEr2O3を浮遊させて密度を測定。また、SPring-8の高エネルギーX線回折の測定装置で試料をガスで浮遊させ、構造を計測した。

 その結果、SPring-8の分析から、Er2O3の液体はガラスにならない他の液体に比べ、結晶のように原子配列の規則性が極めて高いことが分かった。また、浮遊炉で得られた密度のデータにコンピューターシミュレーションを加味して三次元モデルを作ったところ、原子の集合体が、ガラスにならない他の高温液体には見られない歪んだ状態になった。さらにシミュレーションや先端数学に基づいた解析で、Er2O3の液体の特徴が位相幾何学的に結晶に似ていることなどを解明した。

液体Er2O3の歪んだ原子集合体(物質・材料研究機構提供)
液体Er2O3の歪んだ原子集合体(物質・材料研究機構提供)

 この成果で得られた高温液体の知見は、ガラスができる条件の解明や、高温液体であるマグマから鉱物が形成される過程、つまり地球の成り立ちの理解につながるという。こうした基礎科学のほか、スマートフォンの画面のカバーやレンズのガラス、耐熱セラミックスの高性能化など、材料の革新にも道を開く期待がある。

 グループの物質・材料研究機構先端材料解析研究拠点の小原真司主幹研究員(無機材料科学)は「地上と宇宙の高度な設備を組み合わせて得られた成果だ。Er2O3の液体は位相幾何学的に結晶に似ているから、ガラスにならないのではないか。今後さらに調べる必要がある」と述べている。

 グループはJAXA、琉球大学、物質・材料研究機構、京都大学、ノルウェー科学技術大学、弘前大学、函館工業高等専門学校、東北大学、エイ・イー・エス、高輝度光科学研究センター、理化学研究所で構成。成果は2日、英国の材料科学専門誌「NPGアジアマテリアルズ」に掲載された。

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