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涙中の特殊な脂質がドライアイを防ぐ 北海道大が解明

2020.04.17

 涙に含まれる特殊な脂質がドライアイを防いでいる仕組みを、北海道大学大学院薬学研究院の木原章雄教授(生化学)らの研究グループがマウスを使った実験で解明した。ドライアイの主な原因は涙の外側に存在する油層の異常だが、従来はその仕組みが分からず、油層の異常を標的とする薬はなかったという。パソコンやスマートフォンの使用などでドライアイの患者が増える中、効果的な治療薬の開発につながると期待される。

 眼球を覆う涙のうち、空気と接する外側の部分には油層があり、これが内側の液層の水分の蒸発を防ぐ障壁の役目をしている。油層の脂質は、まぶたの裏側にある「マイボーム腺」と呼ばれる器官から分泌される。ただ、このように水と油の層が安定して重なる仕組みの解明は涙研究の重要な課題だった。

 油層には、水と油の両方に溶けやすい性質を持つ特殊な脂質「オーファ(OAHFA)」が少量だけ存在する。オメガ水酸化脂質と呼ばれる物質の一種で、グループはこれが液層と水に溶けにくい大部分の油層との間をつなぎ止めている可能性があるとみて、まずオーファを作り出す酵素を特定。次に、この酵素の遺伝子を皮膚以外で欠損したマウスを作り、目に異変がないかを調べた。

 その結果、このマウスはまぶたが閉じ気味で、涙が下まぶたにたまっていた。マイボーム腺の異常のため脂質が減って水分が蒸発し、ドライアイになっていた。またこの酵素がないことにより、オーファが正常なマウスの約20%しかないほか、正常なマウスにはあるオーファ以外の他のオメガ水酸化脂質も消えていることが分かった。

正常なマウスの目(左上)とその拡大写真(左下)。ドライアイのマウスの目(右上)とその拡大写真(右下)(北海道大学提供)
正常なマウスの目(左上)とその拡大写真(左下)。ドライアイのマウスの目(右上)とその拡大写真(右下)(北海道大学提供)

 正常なマウスでは涙中の脂質が水に溶けやすいものから溶けにくいものへと層状に分布することで液層を上手に覆い、ドライアイを防いでいることも解明した。

 ドライアイの原因の8割は油層の異常とされるが、治療薬には今のところ液層に働くものしかないという。木原教授は「ドライアイの防止に油層の正常な形成が重要であることを、実験で明らかにしたのは大きい。油層をターゲットにした目薬、さらには飲み薬などの開発につながると期待される」と述べている。

ドライアイを防ぐオメガ水酸化脂質(北海道大学提供)
ドライアイを防ぐオメガ水酸化脂質(北海道大学提供)

 この研究は日本医療研究開発機構(AMED)の革新的先端研究開発支援事業の研究開発課題「脂質による体表面バリア形成の分子機構の解明」の一環として行われた。成果は4月7日、英国の生命科学誌「イーライフ」に掲載された。

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