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脳波を利用して英語のリスニング能力を向上「ニューロフィードバック」で強化

掲載日:2017年6月22日

脳科学や精神医学の分野で注目されている「ニューロフィードバック」と呼ばれる手法を使って英単語のリスニング能力を無意識のうちに向上できる技術を開発した、と情報通信研究機構(NICT)と大阪大学などの研究グループがこのほど発表した。研究グループによると、実験では「R」と「L」の音の違いを聞き分ける能力が短時間で向上した。リスニング学習はこれまで一定程度の時間が必要だったが、効率よく学習できる教育手法として活用できる可能性があるという。

ニューロフィードバックは、脳波計を使って個人の脳活動のパターンを検出し、パターンの情報をその人に伝えることでその人が望む脳活動パターンに近づける自律的な学習を可能にする技術。1980年前後に米国で提唱、開発され、その後欧米を中心に心理療法や精神疾患の治療などに応用されてきた。最近ではスポーツ分野など広い範囲でパフォーマンス向上を目的とした適応が注目されている。効果の有効性についてはさまざまな研究があるが、発表された研究成果はこの技術の有効性を示す具体的なデータと言える。

英単語のリスニング学習では、単語の音、例えば「Right」あるいは「Light」の単語を聞かせてどちらの音であるかをテストし、回答が正解か不正解かを学習者に伝えて正誤を認識して学習を促す場合が多い。しかしこのような教育手法では多くの場合成果が出るまでに時間がかかる、とされている。

今回成果を発表した研究グループには、NICT脳情報通信融合研究センター脳情報工学研究室の成瀬康室長と常明研究員のほか、大阪大学や北海道大学の研究者らが参加した。成瀬室長らは、ニューロフィードバックを応用し、日本語にない音の違いを学習できる独自のニューロフィードバック応用システム技術を開発した。学習者は耳に入る英単語に注意を向けなくても「音の違い」に反応する脳活動(MMN)を大きくするよう自分でイメージしてトレーニングすればいいというユニークな技術。

研究グループは、海外滞在経験がない22歳から37歳までの男性8人女性7人の計15人の協力を得てこの技術の有効性を確かめる実験を行った。具体的には、15人を2グループに分け、ニューロフィードバックグループ(8人)の実験参加者全員に脳波計を装着してもらい、イヤホンを通じて「Right」と「Light」の英単語をランダムに聞いてもらった。参加者の前にはディスプレイを設置し、ディスプレイには参加者のMMNの大きさが反映する緑の円が表示されるようにして「単語を聞かせますが単語の音を無視して何を考えてもいいので緑の円を大きくするようイメージしてください」と指示した。「Right」と「Light」の音を聞いている時の脳波から2つの単語音の聞き分けに関連するMMNのパターンを取り出し、その大きさを緑の円として表示して参加者にその円を大きくするようにイメージしてもらう仕組み。一方、コントロールグループ(7人)参加者の前のディスプレイには自分のMMNとは無関係な他人のMMNを表示する仕組みにした。

実験は1日1時間、5日間続けられた。「円を大きくするようイメージする」とは、実験に参加しないと分かりにくいが、実験後に参加者は「外側に広がるイメージをした」「風船が膨らむイメージをした」などと話していたという。

こうした実験の次に、「Right」と「Light」の単語を聞き分けるリスニングテストを行ったところ、ニューロフィードバックを使って単語の音の違いに反応するMMNを大きくしようと努力してイメージしたニューロフィードバックグループの参加者の平均正答率は60%前後から約90%に向上した。

一方、コントロールグループはほとんど変化がなかった。研究グル-プは、参加者が緑の円に反映されるMMNを大きくしようとイメージしても自分の脳波につながったMMNでないためにニューロフィードバックの効果が出なかった、とみている。

実験結果について研究グループは「実験参加者は音の聞き分けの学習をしているつもりがなくても、無意識のうちに(ニューロフィードバックの効果で)『Right』と『Light』の音の聞き分けが5日間程度で出来るようになった。現在はRとLに関する結果だけだが、日本人の苦手な英語の発音は他にもあるため、日本人の苦手なさまざまな発音を効率よく学習できるシステムを構築していきたい。実用化できれば効率よくリスニング能力を向上できる教育手法となることが期待できる」などとしている。

図1 無意識に英語のリスニング能力を向上させるニューロフィードバック技術の概念図(NICTなど研究グループ作成・提供)
図1 無意識に英語のリスニング能力を向上させるニューロフィードバック技術の概念図(NICTなど研究グループ作成・提供)
図2 実験の概念図。実験参加者は、聞こえてくる音は単に聞いているだけで、目の前に提示された緑の円を大きくするようにイメージする(NICTなど研究グループ作成・提供)
図2 実験の概念図。実験参加者は、聞こえてくる音は単に聞いているだけで、目の前に提示された緑の円を大きくするようにイメージする(NICTなど研究グループ作成・提供)
図3 ニューロフィードバック利用技術の実験による学習の効果。学習前はニューロフィードバックグループ、コントロールグループ共に正答率が60%前後で、コントロールグループの正答率は向上しなかったのに対して、5日間の学習後には、ニューロフィードバックグループの正答率は約90%に向上した(NICTなど研究グループ作成・提供)
図3 ニューロフィードバック利用技術の実験による学習の効果。学習前はニューロフィードバックグループ、コントロールグループ共に正答率が60%前後で、コントロールグループの正答率は向上しなかったのに対して、5日間の学習後には、ニューロフィードバックグループの正答率は約90%に向上した(NICTなど研究グループ作成・提供)
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