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悪性度高いがんを検知する新造影剤を開発

2016.05.19

 悪性度の高いがん組織を検知できる新しいタイプの造影剤を東京工業大学、量子科学技術研究開発機構と川崎市産業振興財団・ナノ医療イノベーションセンター(川崎市)の共同研究グループが開発し、このほど研究成果を発表した。実験では1.5ミリの微小な転移がんを検知することに成功し、悪性度の高いがんの高精度診断法につながる可能性があると期待される。

 がん治療は、発見時期だけでなくがんの悪性度が重要な要素となる。比較的早期に発見できても悪性度が高いと治療後の経過は予断を許さないケースは多い。

 東京工業大学科学技術創成研究院の西山伸宏(にしやま のぶひろ)教授と量子科学技術研究開発機構・放射線医学総合研究所の青木伊知男(あおき いちお)チームリーダーらは、悪性度の高いがん細胞が存在する「腫瘍内低酸素領域」を可視化できる造影剤の研究を進めた。この領域は、抗がん剤が届きにくく放射線治療の効果も低いために悪性度の高いがんに変化して転移を引き起こすとされていた。

 研究グループは、がん組織に特有の低い水素イオン濃度(pH)環境で溶解する粒子(リン酸カルシウムナノ粒子)の周囲を造影効果があるマンガンで包み込むという新しい着想で造影剤を作製した。この新造影剤は「ナノマシン造影剤」と名付けられ、pHが低いがん組織に入るとマンガンを放出、がん組織のタンパク質と結合して強い信号を出す。このため現在のMRI(磁気共鳴画像装置)造影剤より高感度でがん組織を可視化できる。

 研究グループによるマウス実験で、ナノマシン造影剤がマウスのがんの腫瘍内低酸素領域度を鮮明に捉えたほか、1.5ミリの大腸がんの肝転移組織も検知できたという。

 研究グループは、新しい造影剤は人体内のあらゆる臓器、組織に適用できるため、悪性度の高いがん細胞が潜む部位を早期に見つけることができ、これまでなかった高精度がん診断法開発に道を開く可能性があるとしている。

 この研究は科学技術振興機構(JST)の研究成果展開事業の支援で実施された。

写真と図 ナノマシン造影剤は、現在のMRI造影剤よりも高いコントラストでがん組織を検出、可視化できる(東京工業大学、量子科学技術研究開発機構、ナノ医療イノベーションセンターによる研究グループ提供)
写真と図 ナノマシン造影剤は、現在のMRI造影剤よりも高いコントラストでがん組織を検出、可視化できる(東京工業大学、量子科学技術研究開発機構、ナノ医療イノベーションセンターによる研究グループ提供)

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