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新生した嗅細胞は匂い刺激で嗅覚維持

掲載日:2015年2月16日

嗅覚研究で重要な発見があった。新しく生まれた嗅細胞は匂い入力がないと、既存の神経回路に組み込まれずに細胞死に至ることを、東京大学医学部耳鼻咽喉科の山岨達也(やまそば たつや)教授と菊田周(きくた しゅう)助教らがマウスで見いだした。新生した嗅細胞の生死は、神経細胞が生まれて7~14日目に匂い入力があったかどうかで決められることも発見した。2月11日付の米神経科学会誌Journal of Neuroscienceオンライン版に発表した。

人は風邪や鼻炎の際に時々、匂いを感じにくくなる。これは鼻の奥にある嗅上皮と呼ばれる場所に密集して存在する嗅細胞が障害を受けることが一因と考えられている。匂いの情報を脳に伝える嗅細胞は、毎日古くなったものが死んでいくため、大人になっても1~3カ月で更新されていく。この新しい嗅細胞が脳の神経回路にきちんと組み込まれるため、古いものが失われても、人の嗅覚が失われることはない。しかし、新しく生まれた嗅細胞がどのような仕組みで、既存の神経回路に組み込まれているかは謎だった。

研究グループは、おとなのマウスに嗅毒性物質を投与し、既存の古い嗅細胞をすべて除去して、その後に新しく生まれた嗅細胞のみを分析できるようにした。嗅上皮から古い既存の細胞が除去されると、28日後には嗅上皮は新しく生まれた嗅細胞で完全に置換された。しかし、片鼻を閉じ、匂い入力が入らない状況では成熟した嗅細胞数が、もう片方の鼻を閉じていない側の成熟した嗅細胞数と比較して減少していた。また、鼻を閉じていた場合は、閉じていない場合に比べて、神経活動の減少も確認された。この結果、新生した嗅細胞は匂い入力を受けて成熟することがわかった。

どの時期の匂いがより有効かを実験で調べた。嗅細胞が生まれて7~14日の間に匂い入力を受けないと、未熟な嗅細胞が成熟せずに細胞死していた。さらに、未熟な嗅細胞が多く死ぬ7~14日の時期に、細胞死を抑制する薬剤を投与すると、嗅細胞の数が回復した。実験結果をまとめると、嗅細胞には、匂い入力の有無で新生した嗅細胞の生死が決まる臨界期が7~14日に存在することが判明した。この臨界期は、新生した嗅細胞がちょうど既存の神経回路とシナプスを形成する時期に一致していた。

菊田周助教らは「このマウスの実験で、嗅上皮を障害した後の再生過程に匂い入力が極めて重要な役割を果たしていることがわかった。嗅覚障害の治療法は十分に確立していないが、今回の発見で、嗅覚障害患者に特定の時期に匂い刺激を与える『匂いリハビリテーション』によって、嗅覚改善の可能性がある」と期待している。

終生にわたり巧妙に維持される嗅細胞の恒常性。古い嗅細胞(黄)が細胞死に陥っても、新生した嗅細胞(緑)が失われた嗅細胞の機能を補い、匂い情報は安定して脳に伝わる。
図1. 終生にわたり巧妙に維持される嗅細胞の恒常性。古い嗅細胞(黄)が細胞死に陥っても、新生した嗅細胞(緑)が失われた嗅細胞の機能を補い、匂い情報は安定して脳に伝わる。

嗅上皮障害後の生理的回復過程と鼻閉環境下での回復過程
図2. 嗅上皮障害後の生理的回復過程と鼻閉環境下での回復過程
(いずれも提供:東京大学医学部耳鼻咽喉科)
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