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ニホンザルに「ご当地ハグ」文化の違いか

掲載日:2015年2月12日

ニホンザルでは緊張を和らげる抱擁(ハグ)の仕方に地域差があることを、京都大学大学院理学研究科の中川尚史(なかがわ なおふみ)准教授と西川真理(にしかわ まり)教務補佐員らが初めて発見した。地域ごとにニホンザル集団で文化の違いがあることをうかがわせる興味深い行動として注目される。中京大学の松原幹(まつばら みき)非常勤講師、帝京科学大学の下岡ゆき子(しもおか ゆきこ)専任講師との共同研究で、米科学誌Current Anthropology2月号に発表した。

人間には握手や抱擁の習慣が国や民族で多様な文化があるように、動物にも文化的行動が知られている。これまで動物の文化として有名な例は、今西錦司(いまにし きんじ)博士らの京都大学の研究チームが1952年に宮崎県幸島で発見したニホンザルのイモ洗い行動など、食物獲得に関わる行動が多かった。しかし、食物とは無関係の、物の操作も伴わないあいさつなどの社会的慣習で多様な文化がニホンザルにあるか、明確な証拠はなかった。

研究グループは、宮城県の金華山島と鹿児島県の屋久島のニホンザルがこれまで報告のなかった奇妙な行動をするのを見つけた。この行動は、主におとなメス同士が向き合って座り、互いの腕を相手の体に回して抱き合う行動で、1日1、2回の頻度だった。いずれの地域でも、あまり仲の良くない個体同士の接近直後など、個体間の緊張が高まった状況で起こり、その後は互いの毛繕いに移行することから、緊張緩和の機能があると考えた。

この抱擁の仕方には、金華山と屋久島で違いが認められた。第1の違いは体の向きで、金華山では、対面だけだが、屋久島では対面に加え、片方が他方の体側から抱きつくことが多く、背中側から抱きつくこともあった。第2の違いは、金華山では抱き合った体を前後に大きく揺するのに対し、屋久島では相手の体をつかんでいる手のひらを開けたり閉じたりしていた。金華山には、この抱擁がみられないニホンザルの群れもあった。

ほかの研究者の野外調査によると、青森県の下北半島南西部や石川県の白山のニホンザルにも、おとなのメス同士で抱擁があるらしい。京都の嵐山や岡山県の勝山、大分県の高崎山のニホンザルには、この抱擁は見られなかった。抱擁の仕方、抱擁行動の有無の地域差は、環境や遺伝的な違いだけで説明できそうにない。このため、「たまたまある地域で始まった特定の仕方の抱擁行動が社会的に伝わっていった文化、慣習だろう」と結論づけた。

中川尚史准教授は「抱擁の習慣について十分なデータを収集するには、粘り強く長時間、野生の動物の行動を観察することが必要なので、調査に苦労した。地域ごとに違う抱擁行動の社会的慣習がどのように生まれ、集団に広がり、あるいは消えていったのか、今後調べたい。また、この研究がきっかけになって、霊長類やほかの動物の社会的慣習に関心が高まるよう期待する」と語っている。

各地のニホンザルで抱擁行動が知られている個体群と知られていない個体群
地図. 各地のニホンザルで抱擁行動が知られている個体群と知られていない個体群

金華山のニホンザルの対面抱擁
写真1. 金華山のニホンザルの対面抱擁
(提供:中川尚史・京都大学准教授)

屋久島のニホンザルの体側抱擁
写真2. 屋久島のニホンザルの体側抱擁
(提供:西川真理・京都大学教務補佐員)
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