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細胞組織を透明化する新試薬

掲載日:2013年6月26日

理化学研究所「発生・再生科学総合研究センター」感覚神経回路形成研究チームの今井猛・チームリーダーと柯孟岑(カ モウシン)研修生、藤本聡志研究員らは、生体組織の形状を保ちながら透明化する、はちみつや果物などの果糖が主成分の新しい試薬「SeeDB(シーディービー)」を開発した。

これまで体の細胞や組織の微細構造を蛍光顕微鏡で3次元的に画像化するには、細胞成分や水分によって光が散乱するため、表面から深さ数百マイクロメートル(100万分の1メートル)までが限界だった。深部の組織を透明化する方法として近年は、水分を高屈折率の液体に置き換える「BABB法」や、細胞成分のタンパク質を変性させる「Scale法」、脂質を除去する「CLARITY法」などが開発されているが、透明化に時間や手間がかかり、組織の微細構造や蛍光色素を損なうなどの問題があった。

研究チームは、屈折率が高く、生体試料へのダメージが少ない水溶性試薬として、フルクトース(果糖)と水および微量の還元剤からなる透明化試薬「SeeDB」を開発した。試薬の名称は、“脳の深部まで見ることができる”という意味の「See Deep Brain」に由来する。この試薬を使うと、ホルマリンで固定した脳などの生体試料を、従来法(2-3週間)に比べてわずか3日程度で透明化できる。手順も簡単で、試料や蛍光色素へのダメージもないという。

SeeDB試薬で透明化した蛍光標識マウスの脳を、光パルスレーザーを利用した「2光子励起顕微鏡」で撮影したところ、脳の深さ6ミリメートルまでの連続した高解像度画像が得られた。さらに、これまで不可能だった、左右の大脳半球をつなぐ「脳梁(のうりょう)」の繊維1本1本を区別して観察できたほか、匂いの情報を処理する「嗅球」の詳細な神経細胞の配線様式などを明らかにすることもできた。

開発の透明化技術により、脳の神経細胞の接続様式(コネクトーム)の解析や、生物の立体的な発生の様子など、「3D生物学」の研究発展が期待できるという。今回の研究成果は、JST戦略的創造研究推進事業「さきがけ」や日本学術振興会科学研究費補助金、三菱財団、住友財団、中島記念国際交流財団の助成によって得られた。

研究論文“SeeDB:a simple and morphology-preserving optical clearing agent for neuronal circuit reconstruction”は23日、科学誌『Nature Neuroscience』のオンライン版に掲載された。

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透明化したマウスの胎仔(右)

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SeeDBと2光子励起顕微鏡によって取得した蛍光画像の3次元表示

 

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